13-2 絆からわかるお互いの距離
しばらく沈黙が続いた後「戦いに費やした時間を返してほしい。醜くなってしまった。知らなくていいことを知ってしまった。裏切り、復讐心、嫉妬、悪知恵、失ってしまったものがたくさんある。そして、信じるということを失ったことが、一番悲しい。ごめんなさい。まだ、ショウのこと、信じきれてない……」
「信じることは強制されてすることじゃない。今は、少しでも信じてくれていればいい」
「優しくされると、辛い」
「なぜ?」
「醜い心を持った私には、その優しさが重いから」
「醜い心を持ったのは、人間だ」
「いいえ、私は変わったわ。人を陥れることに何の抵抗も感じなくなった。このまま行ったら、誰かが仕掛けた罠にかかって、やられてしまうでしょうね」
「そんな事にはならない」
「もしかしたら、明日の朝には、死んでるかもしれない」
「そんな事にはならないと言ってるだろう」
「私自身でさえ先のことがわからないのに、なんでそう言い切れるの?」
「俺がいるからだ」
「なんでショウがいると、私は死なくて済むの?」
「危険なことをさせないからだ」
「私の任務に、危険じゃないことなんてない」
「そのうちわかる」
「なんでそのうちなの? そのうちが来る前に、私は、死んでしまうかもしれないのに」
「何度も言わせるな。俺がいるかぎり、そんな事はない」
再び沈黙があった後「そういえば、体調はどうだ? 少しは薬が効いてきたか?」
「……あまり、良くない」
「昨日のせいか。ごめん、俺のせいだ」
「ショウのせいじゃない。私が今まで、ショウに、酷いことしてきたのが、いけない」
「それはお前の思い込みだ」
「エッ?」
「お前の思い込みだよ」
「そんなことない」
「俺は、酷いことされたと思ってない」
「……なんで? 普通は、怒るでしょう?」
「前に言っただろう。目標達成に向けて前進できるなら、多少のことは目をつぶるって」
「……変なの」
「何が変なんだよ」
「……変だよ」
「……じゃあ変なんだろう」ショウはお茶を飲み干すと「もし体調が良くなったら、外へ出ようと思ったんだけど、行くか?」
「……外に、出たい」
「なら行こう。少しくらいなら大丈夫だろう? 家の庭にきれいな花がたくさん咲いてるぞ」
「大丈夫、かな?」
「庭に出るくらいなら大丈夫だ。俺もいるし、気分も少しは良くなる」
そう言われてキラはベッド脇のバッグからシガレットケースのような金属の箱を出すと、開けて中からチップを取りだし、額に付けると、ショウに貸してもらったバンダナで額を隠し、支えられて部屋から出る。




