8 お裾分けのシチュー
家に入ってキラの部屋を覗くと、気配を感じたらしく目を覚ました。
「ごめん。起こすつもりはなかったんだ」ベッド脇へいって椅子に座ると「気分はどうだ?」
「……ン、少し、楽になった」
「今、隣の奥さんからクッキーをもらったんだ。食べるか? 焼き立てだぞ」
「……うん」
「じゃあ、お茶を入れてくる」
部屋から出てキッチンへ行くと、バスタオルを頭からかぶったキラが出てきて、洗面所へ向かう。
「キラ。バスタオルを頭からかぶるなら、通る前に声を掛けてくれ。ビックリするだろう」
「……通る」
「……わかった」
ティーセットを持って部屋に行くと戻ってきたキラが向かいに座り、テーブルに置いてあるノートPCの電源を入れる。
「グループに、元の姿に戻ってしまったことを連絡したんだろう? 返信きたか?」
「来てる。こんな事例は今までなかったから、原因がわからないって」
「そうか。アルバートには連絡取れないか?」
「心配かけたくないから、連絡してない」
「まあ、ケアの仕事を始めたばかりだと言ってたから、変化した原因がわからないかもしれないな。とにかく、体調を戻すことに専念しよう」
「でも、ずっと家に閉じこもってたら、怪しまれる」
「あのチップは、連続して使わなければ大丈夫なんだろう? だったら、数日おきに付けて、何回か外に出ればいいだろう。それで顔を見せれば、怪しまれることはない」
「……そうだね」
「外は花が満開できれいだぞ。明日、外へ出てみるといい」
「……うん」
日が暮れてきたころ、グロサリーストアの奥さんが大きな鍋を持ってやってきた。
「こんばんは。野菜シチューがおいしくできたよ」
「ありがとうございます」対応に出たショウが鍋を受け取ると「お連れさんの具合はどう?」
「お陰さまで、良くなってきてます」
「それは良かった。元気になったらお店に遊びにきてよ」
「はい」
「お鍋は明日、取りに来るから」と言って帰っていく。
ダイニングテーブルに用意してある鍋敷きに置くと「誰がきたの?」フードをかぶったキラが、部屋のドアを開けて聞いてくる。
「さっき話したグロサリーストアの奥さんが、野菜シチューを作って持ってきてくれたんだよ」蓋を取ると「クリームシチューか。すごい具だくさんだな。おいしそうだ」
匂いにつられてキラがリビングへ来るので「そこの皿に入れてくれ。俺はパンを焼いて持ってくる」
キラがシチューをよそっている間、ショウはトースターで焼いたパンを持ってくると、向かい合って席に座り「食べられるだけ食べればいいから。無理するな」キラは頷くと、まだ熱いパンを取ってバターを塗り、食べはじめる。
シチューを食べるショウが「自慢するだけのことはあるな。うますぎ」おいしそうに食べると「ああ、肉類は入れないように言ってあるから、食べても大丈夫だ」
するとキラも一口食べ「すごく生姜が効いてる」
「これは食欲出るな」




