7-1 情報収集のための散策
ショウは戸締りを確認してバスケットを持つと、隣のお爺さんの家を訪ねた。
「まあまあ、わざわざすみません」呼び鈴を鳴らすと、奥さんが慌てて出てくる。
「おいしい朝食をありがとうございました」バスケットを返すと「お嬢さんの具合はいかがですか?」と聞かれ「ちょっと無理したみたいで、薬を飲んだので落ち着いてます。しばらくご厄介になります」
「そうですか。それでは、お元気になられたら、一度お食事にいらしてください。若い方は大歓迎よ」
「はい。その時はお邪魔します」
「せっかくいらしたんですから、お茶でもいかがですか?」
「でも……」
「差し支えなければどうぞ」
「では、ちょっとお邪魔します」
奥さんの後から家に入り、奥のリビングへいくと「きれいな部屋ですね。花でいっぱいだ」
窓から見える庭には、色鮮やかな花がたくさん咲いているのが見える。
「いつも花に囲まれていようというのが、この村の意向なんですよ」
「いいですね。落ち着きます」
「さあ、どうぞ」窓の外が見えるソファに案内され、座ると外の景色が絵画のように見える。
奥さんは隣のキッチンからティーセットを持ってくると、この土地で飲まれているらしいお茶を入れてくれた。
甘い香りがする赤っぽいお茶。
「いただきます」一口飲むと「香りは甘いのにサッパリしてますね」
「お口に合うかしら? この大陸の内陸部で飲まれてるお茶なのよ」
「そうなんですか。朝に飲むと目が覚めますね」
「そういえば、まだお名前を伺ってませんでしたね。私はアメリアと言います」
「ショウです。連れは、キ、いえ、ラルと言います」
「主人の話では旅をされているとのことですが、なんでまたこの大陸に来られたんですか?」
「実は僕たちルポライターでして、各地を取材して雑誌に記事を載せてるんですよ。いろんな土地を周ってたんですが、残ったのがこの大陸で。今回、一気に周ろうと乗り込んできたんです」
「そうなんですか。若い人達には可能性がたくさんあっていいですね。でも、よくこの大陸に入れましたね。特にお嬢さんは」
「ちょっと苦労しましたけど、何とか潜り込めました」
「あまりお嬢さんに無理なことはさせないでくださいね。ただでさえ、ここは他の所と違いますから」
「わかってます」
「できれは、すぐにでもこの大陸から出たほうがいいですよ」
「なぜですか?」
「一昨日も、隣の領主の屋敷で騒動があったみたいです。もともと治安は良くありませんでしたが、最近、この大陸の領主たちが何か始めたみたいなんですよ」
「領主たちが?」
「何を始めたのかわかりませんが、この村もいつ巻き込まれるか……」顔を曇らせるので「奥さんたちは、これからどうされるおつもりなんですか?」
「この年ですからね。今さらよそには行けません。ここで骨を埋めるつもりです」
「……そうですか」
「若い人達は、いつでも出ていける用意をしてますけど、私たちはこのままでいいんです」
「領主たちが何を始めたのか、誰もわからないんですか?」
「詳しくはわかりませんが、なんとかという組織が動いてるとかで……計画が止まっているようなことを聞きました」
「何という組織なんですか?」
「さあ、何だったかしら? その組織の存在が計画を邪魔しているとしか」
「そうですか……」
「あなたたちには関係のないことです。悪いことは言わないわ。早くこの大陸から出なさい」
「はい。お茶、ご馳走さまでした。そろそろ戻ります」
「まあ、長々とお話ししてしまってごめんなさいね。よかったら、またいらしてください」
「はい、では失礼します」お礼を言うと家から出る。




