11 接触
その扉はすぐに開き、メイド頭が顔を出すと「さあ、入って」扉を大きく開く。
「失礼します」
ワゴンを押して中に入ると、ダークブラウンのシックな木目調を基調とした細長い部屋の中央に置いてある大きなテーブルに、目的の彼らが座っていた。
テーブル横へ行くと、メイド頭が彼らに声を掛ける。
「皆様、お待たせ致しました。これからすぐにご用意致しますので、もうしばらくお待ちください」言い終わるとキラたちのほうを向き「さあ、急いでセッティングしてちょうだい。くれぐれも、そそうのないようにね」
キラたちは頷くとワゴンの扉を開けてフォークやナイフを取りだし、テーブルの端から順に並べていく。
その時、手前の左端に座っている六歳くらいの女の子が、傍にきたキラに声を掛けてきた。
「お姉ちゃん、今日のお夕飯はなあに?」
「今日は、チコリのサラダにオニオンスープ。メインは旬のキノコを使ったクリームスパゲティ。そして、デザートはアプリコットのタルトですよ」
「ワァイ! タルト大好き!」
セッティングが終わると、グラスにワインが注がれる。
「お待たせ致しました。どうぞお召し上がりください」メイド頭が声を掛けると、彼らはゆっくりとフォークに手を伸ばす。
カシャーン!
「アーッ!」
先程の女の子がフォークを落としてしまったので、代わりのものを持ってキラが駆け寄り「ハイ。気を付けてくださいね」声を掛けて渡すと「ごめんなさいーい」素直に謝って受け取る。
ワゴンのところへ戻るとデキャンタを持って待機し、グラスが空くと、行ってワインを注ぐ。
「本日のワインはいかがですか?」
「とても飲みやすいよ。僕好みだ」
三十五、六歳に見える男性が笑顔で答えると「本当。こんなにいいワインを飲むのは久しぶりだね」彼の向かいに座っている、やはり三十代に見える髭を生やした男性も同意するので「私も飲みたーい!」先程の女の子が、自分の前に置いてあるグラスをキラに差しだす。
「アハハハハッ、メルディアにはまだ早いよ。もうちょっと大きくなったらね」髭を生やした先程の男性が、笑いながら声を掛けると「いや! 今飲みたいの!」駄々をこねるので「それでは、メルディア様には、特別なお飲み物を差し上げましょう」
キラはワゴンのところへ戻ると、奥からマスカットジュースが入ったピッチャーを取りだし、それを持ってきて彼女のグラスに注ぐ。
「わァ、きれいな色」
「おや、メルディアの瞳の色と同じだね」彼女の向かいに座っている初老の男性が声を掛けると「うん! 同じ!」満面の笑みを浮かべて飲みはじめると「美味しい!」
彼女の笑顔が、今まで部屋の中を支配していた暗い緊張感を一気に消し去る。
お陰で、その後は話が弾みながら食事が続いた。
キラはメルディアに付いて食事の補助をし、他のメイドたちは、話の輪に加わって雰囲気をさらに盛り上げる。
デザートのタルトのときはそれぞれ好きな飲み物を注文し、和やかな内に食事が終わった。
お皿を片付けるとドアの前に一列に並び「では、失礼致します」メイド頭が頭を下げると「ご馳走様でした」髭を生やした男性が言葉を返し、続いて「久しぶりに楽しい食事ができたよ」
「とっても美味しかった!」と言葉が返ってくる。
キラたちは、にこやかな笑顔に見送られて部屋をあとにした。




