2-3 不機嫌な理由
しばらくして、泣き疲れたのか落ち着いてくると「何か飲むか?」
小さく頷くのでサイドテーブルにあるミネラルウォーターのボトルを取り、コップに入れて渡すが、手の震えが止まらず、うまく飲めない。
「少しずつ口に含んで、それから飲め」コップを持って少しずつ飲ませるが、カチカチカチッ、震える歯がコップの縁に当たり、音を立てる。
しかも、飲み終わっても、相変わらず震えが止まらない。
「何があったんだ?」涙を拭きながら聞くと「こ、こ、こわ、怖かった、こ、こわ、怖かった」
「怖かった? 何が怖かったんだ?」
「あ、あ、あ あんなに、ダ、ダ、ダーク、ル、ル、ルーラが、お、お、置いてある、な、な、な、な、なん、なんて、んて、お、お、おも、おもわ、おもわな、な、かった、かった」
「エッ?」
「が、が、がまん、がまん、し、しな、しない、と、と、い、いけ、いけな、いけなか、かった、かったの、の、の」
「……ごめん。そこまで思い付かなかった」
「シ、シ、ショウ、に、に、と、とって、とっては、た、た、ただ、ただの、か、か、鏡だと、と」
「ただの鏡だなんて思ってない。もう大丈夫だ。あそこの鏡は全部押収して……そうか、壊してないから、恐怖が取れなかったのか。そうだよな。怖かったよな。部屋一面にあったんだから。気付かなくて、悪かった」上着を掛け直すと「付いててやるから、少し寝ろ」
「ね、ね、ねら、ねられ、れ、れな、れない」
「俺が付いてる。こうやって傍にいるから」抱き寄せると「そ、そ、そんな、そんなこと、と、し、しなく、しなくて」
「ついててやるから、 お前が起きるまで傍にいるから、 だから、大丈夫だ」
上着を頭からかぶせ、背中をポンポンと叩くが、一向に落ち着く気配がない。
ショウのシャツを握りしめ、必死に恐怖と戦っている。
「気付かなくて悪かった。お前が不機嫌なのは、ワリッキーたちの態度に腹を立ててるからだと、勝手に思い込んでた。ミランドが見せた鏡の部屋を見たときのお前の状態を考えれば、容易に想像がついたのに。本当に悪かった」
恐怖を極限まで我慢したことによる精神の拒否反応。
(恐怖を顔に出せば周りの人間に気付かれるから、平気を装っていなければならない。
ワリッキーたちの話を聞けば、正体がバレたときの恐怖は計りしれなかったはずだ。
あれだけのダークルーラが集められたところを、俺も見たことがない。
この大陸の領主たちは、きっと同じように大量の鏡を所有しているだろう。
ダメだ、これ以上、この大陸で任務を遂行することはできない。
このまま行ったら、こいつの精神が壊れてしまうだろう……。
何か、対策を考えないと)




