10 作戦開始
二人は一時間遅れて、会場となっているアルド宝石店本店の裏側に隣接して建つ、イベントホールとして使われている屋敷の入り口に着いた。
「一体、どれくらいの人が招待されてるのかしら?」受付前にたむろしている人の山を見回すと「さあ、何百人だろうな。しかし、人が多ければ多いほど、目くらましになる」
「枝を隠すなら森の中。人を紛れさせるなら人混みってね」
二人は受付でチェックを済ますと会場となっている中庭へ行き、出入り口横に設置されているカウンターで飲み物を取ると「時間を合わせましょう」中庭の正面の壁に掛かっている大時計と合わせる。
その後、キラはトイレに行くフリをして従業員の更衣室へ行き、用意してきたメイドの制服に着替えると乗ってきた車へ戻り、ショウと一緒にトランクから段ボール箱を取りだして更衣室へ運ぶと、目立たないところへ置く。
「さあ、作戦開始よ」
ショウは隣接する本店にあるアルドの書斎へ証拠となるリストを探しに行き、キラは保護されているシルバーフェニックスのところへ向かう。
「彼らの食事が出るのは午後七時。その時が接触のチャンスね」
屋敷奥にあるキッチンへ行き、何食わぬ顔をして支度を手伝いだす。
パーティを開催するにあたり、臨時のアルバイトをたくさん雇ったので、制服を着ていれば怪しまれることはない。
キラは年長のメイドに目を付けると傍へいき「お食事を運ぶ、お手伝いをするように、言い付かってきました」少し訛った口調でゆっくりしゃべり、ペコッと頭を下げると「そう、ちょうどよかったわ。人手が足りなかったところなの。じゃあ、ここのお皿をそこにあるワゴンに乗せてちょうだい」キラのことをまったく疑わず、指示を出す。
キラはワゴンへお皿を運びながら、調べた人数と合っているか確認した。
(十八人、合ってるわ)
支度が整うと、キラの他に三人のメイドを引き連れて、メイド頭の先程の女性がキッチンから出ていく。
何分歩いただろう。何回も角を曲がるので、初めて来た人はきっと迷子になるだろう。
屋敷の中で遭難したらいい笑い者だ。
キラが辺りをキョロキョロ見ていると「どうしたの?」メイド頭が声を掛けてくる。
「あの、今、どこら辺を歩いてるのか、わからなくなってしまって」
「ああ、あなたは来たばかりだったわね。それじゃあ仕方ないわ。このお屋敷に慣れるには、最低半年はいないと把握できませんからね」
「半年ですか! そんなに大きなお屋敷なんですか!」
無邪気に驚いてみせるが、実は、頭の中に叩き込んできた見取り図と照らし合わせていた。
そしてまた間接照明が等間隔についている迷路のような廊下を進むと、警備員が両脇に立つ扉の前まできた。
メイド頭は振り向くと「ここで待っててちょうだい」と声を掛け、ドアをノックすると一人で中に入っていく。




