21 狩り人のアシスタント
その後、夕飯の時間十五分前になると支度ができたとメイドが呼びに来たので、一階へ降りてゲスト用のダイニングルームを過ぎ、さらに先へ進むと、従業員用の食堂の奥にある隠し扉を開け、中に入っていく。
その部屋は従業員用の食堂と同じような感じで、すでに数名の男たちがテーブルに座り、入ってきたキラたちが何者なのかを探るように睨みつける。
すると、先に来ていたダッケンが立ち上がり、二人を紹介しはじめた。
「今日入った新しい仲間だ。大きいほうがショウで小柄なのがビー」
「お前らが新記録を出したのか?」手前に座っているタンクトップで筋骨隆々な、短髪で三十代くらいの男が聞いてくるので「まあね」ショウが答えたとき、隣のキラ目がけてリンゴが飛んでくる。
それをショウが寸でのところで取り「面白い歓迎だな」そのリンゴをキラに渡すと「お前が取っちゃ何にもならねえだろう」先ほどのタンクトップの男が文句を言ってくるので「こいつを試したのか?」キラを指すと「そんな柔な体で本当に新記録を出したのか、試したんだよ」
「飛んできたリンゴにすら気付かないなんて、記録はデタラメなんじゃねえか?」ロンゲ茶髪の男が揶揄うように言うと「それはないだろう」奥から別の男の声が聞こえてくる。
長い黒髪の前髪から右目だけ見える男が、奥の壁のところに置いてある大きな観葉植物の影から出てきて「俺がリンゴを投げたと同時に、これが飛んできた」右手で握るナイフを見せ「見事だ」
「そのナイフをこいつが投げたっていうのかよ」タンクトップの男がキラを指すと「そうだ」と答えるので「ウソだろう? こいつ、身じろぎもしなかったぞ」
「お前が気付かなかっただけだろう?」
「マジかよ……」
「リンゴも、相棒が止めてくれるとわかってたんだろう?」
「まあね」少しおどけて答えると「手荒な歓迎をして悪かった」ナイフをテーブルに置き、近くの席に着く。
「ここでの試験も合格した?」キラがダッケンを見ると「花丸付きの合格だ」満足そうに笑う。
「本当にこいつがやったのかよ」タンクトップの男は納得いかないらしく、またブツブツ文句を言うので「俺がウソを吐いてると言うのか?」ダッケンが少しきつい言い方をすると「そんなこと思っちゃいねえよ。ただ、こうやって見てると信じられなくてなあ」目の前に立っているキラを見る。
「仕事すればわかるだろう。さて、仲間を紹介しよう。タンクトップの文句言ってるこいつがワリッキー。向こうにいるリンゴを投げた黒髪の長身がクラッカー。その隣にいるロンゲ茶髪の縦巻きロールがパフィオだ。同じチームだから顔を覚えてくれ。では食事にしよう。あいてるところに座ってくれ」
キラとショウは奥のテーブルに並んで座ると、誰が掏り人であるチーガスの仲間なのか、探りはじめる。
全員が席に着くと、ウエイターが料理が入った大皿をワゴンで運んでくるので、各自順番にお皿に入れていくと、席に戻って食事を始める。
キラの向かいに来る黒髪のクラッカーが彼女の手を見て「お前、女みたいな手をしてるな。相当甘やかされて育っただろう」少し見下した言い方をするので「毎日手入れをしてるからだよ」ぶっきらぼうに答えると「手入れ? 男が手の手入れをするか?」と、苦笑する。
「手先を使う仕事をするなら必要だろう?」
「何してたんだ?」
「……ピアノを弾いてた」
「音楽屋さんか。お前に向いてるな」
一方ショウは「そういえば、シルバーフェニックスを見たことあるか?」タンクトップのワリッキーに声を掛けられていた。
(これを待ってたんだよね)と思いつつ「いや、まだ見たことない」と答えると「きれいだぜ。この世のものとは思えないくらいだ。動いてるのが不思議だぜ」
「見たことあるのか?」
「もちろん。狩り人をしてりゃ、いくらでも見る機会はあるぜ」
「こいつ、手を出そうとしてクビになりかけたのに、懲りねえのかよ」ロンゲ茶髪のパフィオが窘めると「何言ってんだ! お前だって、いつも欲しそうな目で見てるじゃねえか!」
「当たり前だろう。あれだけの器量だ、一度お願いしてえよ」
「確かにな」
大笑いする男たちをしり目に、キラは黙って食べ続ける。
「ここにもいるんだろう? 見てみたいな」ショウが話に入ると「あとで案内してやるよ。しかし、手を出すなよ」タンクトップのワリッキーがチャカすので「わかってる。目の保養をさせてもらうよ」
「保養だけじゃ満足できねえ、なんてなっても知らねえぞ」
「それは見てから決めるさ」




