17-2 掏り人
「お前、どうやって上がってきたんだよ。それに、早すぎるぞ」
「縄梯子を持ってたりして」左肩に掛けているのを見せると「そんなもの、いつも持ち歩いてるのか?」
「まあね」部屋に入るとトランクにしまい「ミランド。パーティの様子を見せてくれる?」
声を掛けると彼女はドレッサーの前に行き、鏡の端に手を当てると映っているものが歪んで、それが収まると、この部屋から出ていくセリーナの後ろ姿が映った。
「これは、ミランドが見てる映像だな」
「そう。彼女の目がビデオカメラと同じ役目をしてるんだよ。だから、これを見れば同じ体験をしたことになるんだ」
階段を降りる場面から早回しになり、パーティ会場である応接室に入ると元のスピードに戻る。
「プレイヤーもないのに早回しできるって? もしかして、巻き戻しもできるとか?」ショウが目を丸くすると『できるよ。戻す?』
「必要なときに頼むから、今はいいよ」あっさりと返事が戻ってくると思っていなかったので、慌てて答える。
『じゃあ、先に進めるよ』と言うミランドの言い方がキラそっくりなので、わかっているが苦笑した。
ミランドが鏡を見ると中の映像が進んでいき、サルフテッドの隣の壁に掛かっている例の鏡が映る。
「見て大丈夫か?」
「直接見てないから、大丈夫だよ」
「そうか」
「こんな物を堂々と持ち運んでるなんて。ここに来る客を逐一チェックしてるということは、以前、何かあったんだろうね」
「おそらく、お前の仲間が来て屋敷でも爆破したんじゃないか?」
「ああ、やりそうだね」肯定するので「否定しないのか」苦笑すると「しない」笑顔で答える。
ショウはため息を吐くと「とにかく、見てのとおり、俺たちは鏡の前で散々話したから、疑われることはないだろう」
「そうだね」
そして、ショウと話しているチーガスが映る。
「やっぱり来たんだ。あの掏り人」キラが興味のある顔をする。
「俺たちが会長に気に入られると踏んで、予定を変更して来たらしい。ああ、このシーンのときにカマを掛けたんだ。”毎週水曜日は予定があって、いつも船で出掛けると聞いてたので。今日は行かなくていいのか” って」
「なんて答えた?」
”誰からそんな事を聞いたのかな?”
「ヘェ。そんな事してないと否定したんじゃなくて、誰から聞いたのかと情報源を確認したんだ」
「そう! アホだよな」
「やっぱりあいつは掏り人だね。きっと仲間が先に潜り込んでるはずだよ。まずは、そっちを見付けるのが先だね」
「そうだな。いい隠れ蓑がいてくれて助かるよ」
『今回の作戦はできてるの?』ミランドが聞くので「大まかにはね」答えてショウを見ると「目途が付いたらちゃんと説明するよ」と続ける。
その後、一通り映像を見ると「パーティに出てた人の顔と名前は覚えた。何か飲む?」ミランドに聞くと『いいわ。初めてのことばかりだったから少し疲れちゃった。戻るから、何かあったら呼んで』
「わかった。今日はありがとう。ゆっくり休んで」
キラがポケットから付属品の手鏡を出すと手をかざし、徐々にミランドの姿がぼやけていくと消えていった。
「一体、どんな絡繰りがあるんだ?」ショウが信じがたい光景に戸惑うと「魔法みたいだろう?」
「確かにな。その言い方のほうが合ってる」




