16-3 代役
その後、パーティが始まるまで時間があるので、戻ってきたショウはキラの部屋に来ていた。
「ちょっと予定外なことが起きたけど、計画どおりに会長の屋敷へ行けることになったから助かったよ。ありがとう」ミランドに声を掛けると彼女は無表情で『お礼なんていいです。あの鏡のせいで、私たちの生活が脅かされてるんですから、いくらでも協力します』
「君たちの生活?」
『彼女たちがいなくなったら、私たちは存在していけません』
「君は鏡の精霊なんだろう? 直接自然と関係ないんだから、大丈夫なんじゃないのか?」
『自然界のバランスが崩れたら、影響がでます』
「バランス?」
『大地の気の力がバランスを崩すと、場所によっては力の強弱が出て歪みがでてしまうんです。そうなると気のエネルギーが分散して、正常な形を保つことができなくなってしまうんです』
答えてソファに座るので「そうか。それは大事だな。動植物が正常に生育できなくなるってことだろう?」
ショウも向かいに座ると『よくわかりますね』驚いた顔を向けるが、その顔はキラなので「頼むから、その顔で驚かないでくれ」
『どうしてですか?』
「丁寧語で話されるのも違和感ある」ショウは複雑な表情をすると「身振りから話し方までソックリだなんて、あんな短時間で引き継げることじゃないだろう?」
『ああ、鏡はなんでも写すんですよ。その人の性格とか癖も』
「仕草もね」キラがクローゼットから出てくるので「なんだ。まだいたのか」
「外はまだ暗くなってないよ。それに、丁寧語で話さなくて悪かったね」
「逆だよ。俺に丁寧語で話さなくていいという意味だ」ミランドを見ると「よそよそしくて変に疑われてしまうだろう?」
『それもそうですね。気を付けま……気を付ける』
「でも、うまく行ったみたいだね」キラがミランドの隣に座ると「気持ち悪いからこっちに座れ」一人掛け用の椅子を指す。
「気持ち悪いってなんだよ」
「いいから」
文句を言いながらも移動すると「ちょっと余計なことが入ったが、計画どおりに進んでるから、心配するな」
『明日、会長宅へ行けることになったけど、試験を受けないといけないの』ミランドが困った顔をするので「試験? なんの?」キラが聞き返すとミランドが先ほどの話をして『身が軽いかどうかを調べるらしいの。私では無理だわ』
「その時は代わるから大丈夫」
「でも、彼女はこの部屋のドレッサーについてる鏡の精霊なんだろう? この屋敷から出られないんじゃないのか?」
「彼女たちは場所には縛られないんだ。鏡というものの存在を維持するために、彼女たちは存在するんだよ」
「ヘェ、そうなのか」
『ドレッサーの付属で付いてる、この手鏡を持ってってもらえば大丈夫です』立ち上がるミランドがドレッサーの引き出しから手鏡を出すと『ぺアで作られたものです。これを持ってってください』
差し出された鏡を受け取るキラが「変なことをお願いしてごめんなさい」申し訳なさそうに言うと『いえ。私でできることがあったら、何でも言ってください』
「ありがとう」
「で、これからどうするんだ? ここで入れ替わっても、どこであの鏡が出てくるかわからないぞ」
「今日はミランドに任せる。あとで例の鏡をいつ持って帰るか聞きだして。会長宅へ行くときは僕が行かないといけないから」
「そうだな。この後パーティがあるから、その時に褒めちぎって聞きだすよ」腕時計を見ると「そろそろセリーナが呼びにくる時間だ。あとの話はパーティが終わってからにしよう」
「じゃあミランド、よろしく」
『任せといて』
キラがクローゼットの中に隠れると、セリーナがドアをノックする。




