13 最初の洗礼
坂道を上って見晴らしのいい高台にある大きな門へ入っていくと、その先に、蔦が絡まるオシャレな三階建ての洋館が建ち、ブロンズ製の外灯が立つ玄関前に車が着くと、執事らしい背筋がピンと伸びた痩身で初老の男性がドアを開け「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」と頭を下げる。
二人が車から降りると「お荷物はあとでお部屋に運びますので、そのままお屋敷へお入りください」と言われ、ゾウが出入りできそうなくらい大きい玄関に入ると、フカフカの赤いじゅうたんが敷かれた廊下を進み「こちらでお待ちください」両開きの扉を開け、客間のような部屋に通される。
「さすが、高台だけに見晴らしがいいね」キラが街並みを一望できる窓際に立つと「こっちも、さすがにいい物が揃えてある」ショウが置いてある調度品を見ていくので「ヘェ、物を見る目はあるんだ」
「……どういう意味だ?」足を止めて振り返ると「だって、宝石にはケチつけてたじゃん」
「あれは利用価値のことを言ったんだ」
「そうですか」
「そうだ」
「ちょっと出てくる」急にキラが入ってきたドアへ向かうので「どこ行くんだ?」
「ちょっと」
「おい! どこに行くのか聞いてんだろう!」
「ちょっとと言えばちょっとなんだよ! そんなことまで言わせるな! 鈍感!」バタン! ドアを強く閉めるので「なんだ、トイレか。それならそうと言えばいいだろう」
それから数分後、ドアがノックされてメイドがお茶を持ってきた。
カップをテーブルに置くとまたドアがノックされ、別のメイドとお付きらしい男性数名が大きな丸いものを持って入ってくる。
「失礼いたします」メイドが断りを入れ、合図を送ると、お付きの男性たちが大きな丸い物を壁に掛けはじめた。
(あれは!)一瞬、ショウの顔色が変わる。
「お騒がせ致しました」メイドがまた声を掛けてくるので「ずいぶんと変わった鏡ですね」正面に立つと「大旦那様が大事にされておられるお鏡でございます。なんでも、大変価値のあるものだと伺っております」
「でしょうね。見事な彫刻だ」傍にいって鏡の縁を見ると「いつもこの彫刻をご自慢にされておられます」
「よくわかりますよ」
「大旦那様が、こちらへお見えになるお客様にお見せするということで、運んでまいりました」
「そうですか。僕たちにこれを。じっくり拝見させていただきます」
「のち程ご感想を伺いたいと、大旦那様が申されておりますので」
「わかりました」
「では、失礼いたします」
お付きの男性たちを引き連れてメイドが引き上げていく。
(なにがのち程感想を、だ。来客を逐一チェックしてるんじゃねえか)
ショウはポケットから偏光フィルター付きのメガネを取り出して掛けると、鏡が放つ何本もの触手が見えるので(このままだとヤバいな。まさに、飛んで火に入る夏の虫だぞ)
どうしようか考えているとドアノブを回す音がするので慌てて駆け寄り、ドアを押さえてキラの顔を確認すると「入るな」
「な、なんだよ」
「いいから入るな!」強い口調で止めるので、驚いてショウの顔を見るとメガネを掛けていることに気付き「……何か、あったの?」
「ダークルーラがある」
「エッ! どうして?」
「今、メイドたちが持ってきたんだ」
「なんでここに? アッ、まさか」
「そうだ。来客は全員確認してるらしい。例の大旦那が、俺たちに見せたいといって持ってこさせたんだ。白々しく、あとで感想を聞かせろだと」
「……どうしよう」
「鏡があるのは会長宅だから社長宅は大丈夫だろうと思ってたら、まさか持ってくるとはな。とにかく、外へ出よう」
「なんて言って出るんだよ」
「少し船酔いしたみたいだとか言って出るんだ」
「……わかった」




