10-3 探りを入れる
「でも、地震が起きなかったらわかりませんでしたわ」あまりにもショックを受けているキラに理由を話す。
「エントランスにあるカウンターの下に潜ったとき、ササドさんとショウさんが、わたくしたちとあなたがガラスの破片でケガをしないように、奥へ押し込んでくださいましたでしょう? その時、ああ、この方は女性なんだと思いましたの」
「あの時ですか?」
「非常時には、本当の姿を知っている場合、とっさに出てしまいますでしょう?」
「僕を庇ったことがですか?」
「それもそうですけど、あなたを庇うショウさんの表情がそう言ってましたわ」
「俺ですか!」
「いくら変声器を付けてまで男のフリをなさっていても、女性は女性。危険が降りかかれば、本当の姿を知っている人は、どうしても女性として見てしまいますわ。とっさに出る表情は隠せませんものね」
「はあ、そんなものですか」と言いつつ(確かに、あの時はケガをさせられないと思って行動してた)思い出すショウ。
「でも、あの非常事態のときに、よく冷静でいられましたね?」キラが感心すると「冷静ではありませんでしたわ。でも、あれだけのガラスの破片を背に受けて、大丈夫かしらと思ってお二人のお顔を見たとき、そう感じましたの」
「……そうですか」さすが大会社の社長の地位にいる人だと、納得するショウ。
「僕が変声器を使ってることまで見通されてるなんて」甘く見ていたと反省するキラ。
「男装するには必ず必要なものですもの」またニッコリ笑う社長。
「……ええ」
「心配なさらないで。女性だからといって、追い返したりしませんわ」
「……はあ」
「男のフリをなさるのは大変でしたでしょう?」
「いえ、だいぶ慣れました。女を忘れるくらいに」ヘヘッと笑うと「まあ、それはいけませんわ。女性としてのオシャレを忘れることになるんですよ」
「でも、兄を見付けるためには、オシャレなんかしてられないので」
「そこまでお兄様のために覚悟を決めていらっしゃるなんて。あなたのお兄様を見付けるお手伝いをさせていただきますわ」
「いえ、そこまでしていただくなんて。ペラノイオまで乗せていただくだけで十分です」
「何をおっしゃるの。土地のことは土地の者に聞くほうが、手間が省けますでしょう?」
「でも……」
「もう、男性のフリをなさる必要はないのですよ」
その後、ケッドマン社長は秘書のセリーナに呼ばれて、船内へ戻っていった。




