5 意外な出会い
それからほどなくすると、ササドに案内された赤ら顔の社長が、大きな体を揺らしながら医務室へ入ってきた。
あの社長も、ここではきちんとスーツを着ている。
「ケッドマン社長、おケガはありませんか?」汗を拭きながら声を掛けると「ええ、わたくしたちは大丈夫ですわ。こちらの方々に助けていただきましたから」
隣にいるショウたちを見るので「そうですか。おケガがなくてよかったです」ホッとすると「ケガ人の手当てを手伝っていただいてありがとうございます。あとは他の者がやりますので」
「でも」
「ここまでしていただいただけで十分です。さあ」
「あとは僕たちが引き受けますから」キラが声を掛けると「そうですか?」
「はい。ありがとうございました」
「途中で抜けてしまってごめんなさい」
「大丈夫です」
「さあ、こちらへ」ササドが促すとケッドマン社長はキラたちを見て「あなた方はここの社員の方ですか?」と聞いてくる。
「僕たちは臨時のアルバイトです」キラが答えると「そうですか。助けてくださってありがとうございました。お礼が遅れてごめんなさい。あなた方が来てくださらなかったら、落ちてきたガラスに当たって大ケガをしてましたわ」
「いえ、お礼なんて」
「では、お先に失礼しますね」ケッドマン社長は一礼すると、ササドたちと一緒に医務室から出ていく。
数時間後、ケガ人の手当てが終わると社内の掃除もほぼ終わっていて「腹減った。今何時?」ショウに聞くと、ため息を吐いて「午後二時過ぎだ」腕時計で確認する。
「お腹空いたよ。何か食べにいこう」
医務室内を片付けてレストランのような食堂へ向かう途中「開いてるかな?」キラが心配そうに呟くと「さあ、どうだろうな。開いてなかったら売店のパンだな」
「開いててよ」
祈りが通じたのかどうかわからないが、食堂は開いていた。
「開いてる! よかった!」
「今は麺類しかできませんので」受付で対応しているスーツ姿のウエイターが声を掛けてくるので「食べられるなら何でもいい」と言うと「では、右奥の列にお並びください」
二人は指定された列に並び、キラは肉が入っていないキノコソースを、ショウは鶏肉と野菜が入ったチリトマトソースのスパゲティを取ると、空いている席に並んで座る。
「ここはあまり被害がなかったんだね」食堂の中を確認すると「窓ガラスは割れてるが、電気は来てるようだな」ショウが厨房の中を見る。
「ガスも使ってるみたいだよ」
「人が少ないところを見ると、さっきまで閉めてたようだな」
「点検が済むまで閉めてたんだろうね」
「では、いただきます」フォークを取ると食べはじめる。
三十分後「ああ、おいしかった」食べ終わってブランド物のおいしい紅茶を飲むと「それにしても、さっきは驚いたね」一息つくキラが小声で話し掛ける。
「驚きすぎて、大声を出すところだったぞ」ショウも紅茶を飲んで、興奮を落ち着かせる。
二人の最初の目的は、オーラスコーポレーション会長なのだ。
「行先が違う船に乗せられてどうしたもんかと思ったが、メチャクチャラッキーじゃねえか」
「こんなところで最初のターゲットに会えるなんて、すごすぎ。うまくいけば、目的の会長の屋敷に行けるかもしれないよ」
「そうなると、さい先いいな」ショウがニッと笑うと「日頃の行いがいいからね」キラもニッと笑う。




