1-2 潜入開始 面接
「でかい船」見上げるキラ。
夕日をバックに黒いシルエットが海に浮かぶ。
「もう少しまともな声にしろよ。顔と合ってねえぞ」無精髭に聞こえないように小声で言うと「今更変えられないよ」ムッとして言い返す。
「風邪引いてたとか言って誤魔化せばいいだろう」
「わかったよ。変えればいいんだろう」
船内に入ると寝泊りする部屋に案内された。
「お前たちのベッドはこことここだ」
二十人分のベッドが両脇にズラッと並び、指定されたベッドはドアの近くだった。
「枕側に荷物が入れられるように棚がある」と言われ、二人が荷物を入れると、今度は船内を見て周った。
キッチンに入るとごつい男たちが器用に包丁を操って、野菜の皮をむいている。
「食事は当番制だ。一週間交代で回ってくる。お前たちは明日からの当番だ。新人はやることがたくさんあるから、肝に銘じとけ」
「覚悟してるよ」キラが答えると「それはいい心掛けだ」
その後、甲板に出た。
「やけに海鳥が騒いでるな。こんな時間に飛び回るなんて、どうなってんだ?」無精髭は空を見上げると「そろそろ住処に戻らないと、帰れなくなるぞ」
ショウも初めて見る光景に、少し気味悪さを感じた。
「明日の出向は延期したほうがいいよ」声を掛けるキラ。「明日、大きな地震がくる。今の内に、外に出てる荷物を倉庫へ運んどいたほうがいいよ。岸が崩れたら荷物がパアになるからね」
「なんでそんな事がわかんだよ。デマかせ言ってんじゃねえだろうな」無精髭が声を荒げるので「あれを見なよ。空を割るように雲が南北に細長く伸びてる。あれは地震雲だ。海鳥が騒ぐのは予兆を感じてるからだよ。信じないのなら、船の中のネズミを探してみるんだね。きっと一匹も見付からないよ」
「……ここで待ってろ」そう言い残すと無精髭が船内へ入っていく。
「キラ、本当に地震がくるのか?」
「ここではビーだよ。どこに人の耳があるかわからないんだから、気を付けろよ」
「そんなこと予告なしにいきなり言われても、すぐに対応できるかよ」
「呼びづらかったら、オイでもお前でも、呼びやすいように言えばいいだろう。下手に言って正体バレたら、作戦が失敗するじゃないか」
「わかったよ。で、なんで地震がくるとわかるんだ?」
「地震のことは海鳥たちが教えてくれた。それに、空の色が気になる」
「鳥とも話せるのか?」
「仲間だからね」
「仲間ね……で、何時頃にくるかわかるか?」
「マラ ルクスに聞けばわかるだろうけど、もうここにはいないだろうね。とっくにほかの海に行ってるはずだよ」
「マラ ルクスって?」
「マラ ルクスとは海の精霊のことだよ」
そこへ無精髭が戻ってきて「お前の言うとおりだ。ネズミ一匹いねえ」
「どの船にもいないはずだよ」
「絶対に明日、地震がくるんだろうな?」胡散臭そうな顔をするので「何にでも誓うよ」と言うと「わかった。俺はこの事をボスに報告してくるから、お前たちは戻ってくるまでここにいろ」
「船内には入っていいんだろう?」キラが後ろ姿に声を掛けると振り返り「ああ」と答えて船内に消えていくので「ラウンジみたいなところがあったね。そこへ行こう」ショウを促して二人も船内に入る。




