5-2 今度は鉢合わせ
「なーにが、君みたいな美人なら忘れないんだけどな、よ。思いっきり忘れてんじゃないの」
「自分でよく言うよ。それにしても化けたなあ。この前までは、無造作に髪を束ねて、化粧なんか口紅しか付けてなかったのに」
頭の先から足の先までマジマジと見ると、ゴチッ!
「これが本当の私なの!」また握り拳を作るので「お前なあ、その暴力、何とかしろよ」
「そっちこそ、言葉遣いに気を付けなさいよ」相変わらずの威圧的態度。
「チェッ。なんでこんなチッコイ奴に勝てないんだろう? アーッ! そういえばこの前、俺に催眠術かけたろう!」
「あら、よくわかったわね」意外、という顔をすると「それくらいわかるわ!」額に青筋を立て「お陰で三時間もあの場所で立ちんぼ食らって、警官に誤解されるわ、風邪引くわで大変だったんだぞ!」
「アハハハハッ! 三時間もあそこで立ってたの!」お腹を抱えて大笑い。「しかも警官に誤解されたって? 変人に間違われたんでしょう?」なおも笑うと「うるせえ!」顔を真っ赤にして怒るので、あまりの反応に笑いを止め「もしかして、怒ってる?」
「当たり前だろう! あんな事されて、怒らない奴がどこにいる!」
「それはそれは、失礼しました。で、どうしようっていうの?」と聞くと黙り込んでしまう。
しばらくの間、沈黙が訪れる。
「ちょっと、さっきまでの勢いはどうしたのよ」
答えず眉間にしわを寄せるので「なるほど。何も考えてなかったのね」
そのとおりだったりするので、ムッとする。
キラはため息を吐くと「ま、催眠術に気付いたのは誉めてあげるけど、アッサリ掛かってしまうのは、あんたに隙があったってこと。相手を責める前に、自分の未熟さを反省しなさい」と言われ、返す言葉を失う。
「とにかく、なんであんたがこんな所にいるのか知らないけど、ナンパするなら、もうちょっと上手くやるのね」銃をしまうと歩きだすので「おい、ちょっと待てよ!」
「待てなーい。私、忙しいの」
「いいからちょっと待てって」キラの前に立ちはだかり「待てって言ってんだろう」
「何?」ぶっきらぼうに返事をすると「どうして俺がここにいるか、知りたくないか?」
「知りたくない」
「……お前ってさ。思ったこと、素直に口に出すタイプだろう」
「まあね」
「でも、俺の話を聞いたら、そんなこと言ってられねえぞ」
「どうして?」
「アルド氏のパーティに招待されたんだろう?」
「なんですって?」意外な言葉に表情が変わる。
その顔を見てニヤッと笑うと「パーティに招待されるのが目的で、そんな格好してんだろう? ヤツ好みのモデルファッション」
睨みつけるキラの目の前に「俺も招待されたんだぜ。ほら」内ポケットから、招待状代わりのキーを取りだして見せる。
「そう。アルドが言ってた急な客って、あんただったの」
「まあね」
「で、なんであんたが来るの?」
「ちょっとね」意味ありげな顔をするので「目的は?」
「まあ、こんな所で立ち話もなんだから、お茶でも飲みながら話さないか?」
「あんたと?」露骨に嫌な顔をすると「嫌なら無理にとは言わない。けど、行かなきゃ情報は手に入らない」と言われ、どうしたものかと考える。
「どうする?」
「……わかった。お茶ぐらいなら付き合うわ。但し、変なお店だったら帰るわよ」
「美人をお誘いするんだから、グレードの高い店にお連れしますよ」
「私にお世辞は効かないわよ」
「お世辞だなんてとんでもない! 本当のことだよ!」
「それがお世辞だっていうの」




