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カレンさんは魔女なんです  作者: 陽稲(はると)
2 お母さんは魔女なんです
9/19

2-4

こうたを連れて、カレンが一人で営む『喫茶ドロシー』へ帰ってきた。こうたはキョロキョロと辺りを見渡して、店の内装に興味津々だ。


「疲れた」


ソファ席に崩れ落ちたノワールに冷たいミルク、こうたにはうんと甘くした冷たいココアを持たせた。


「ノワール、今日は本当にありがとう」


「猫使いがあらいって」


こうたはストローを使い、ココアをちゅーちゅーと夢中になって飲んでいた。


「で、さっさと覗いて家まで帰そうぜ」


「そうね。その前にあなたを元の姿に戻すわ」


魔力が十分あるなら同時に魔法を使うこともできるが、今のカレンにはノワールの姿を変える魔法と、記憶を覗く魔法を同時には使えない。


ノワールを奥の部屋に連れていき、カレンはかけていた魔法を解いた。みるみる小さくなったノワールは光沢のある毛並みをもった黒猫の姿になった。


「やっぱこっちの方が落ち着くわ」


とことこと元の部屋に戻ったノワールのために、ミルクを平らなお皿に注ぎ直してやった。


「あ! 猫ちゃん!」


こうたは目を輝かせて無防備だったノワールを鷲掴みにした。


「ぐうぇっ」


ノワールは苦しそうな声をあげてバタバタと暴れた。


「こうたくん待って!」


慌ててこうたをノワールから引き離すと、ノワールは部屋の隅まで逃げてから体をペロペロと舐めた。


「逃げちゃった」


「こうたくん、ねこを触る時は優しく撫でてあげてね」


ノワールに近づくと、勘弁してくれと目で訴えかけてきた。


「私が付いてるから」


そう言ってノワールを抱きかかえ、カレンはこうたの膝の上にノワールを座らせた。


「優しくね」


こうたの手を取り、一緒に撫でてあげると、ノワールはしぶしぶといった様子で丸くなった。


「ふわふわ……!」


「かわいいね」


こうたはすっかり猫の姿のノワールを気に入り、柔らかな毛並みの感触を楽しんでいた。カレンはこうたの横に座り、優しく頭を撫でた。


「ちょっと覗かせてもらうね」


カレンはこうたの記憶に潜り込んだ。以前、カレンのもとを訪れた橘という老人の頭を覗いた時は、当時の光景をイメージをしてもらった。覗かれる人が頭に思い浮かべていることは見つけやすいが、今回のように何も言わない場合、大海原に住む一匹の魚を見つけるような作業になる。


しかし子供の場合、頭を支配する思考が大人ほど多くないため普通よりは容易になる。子供にとって、親の存在は記憶の中で大きな容量を占める。


こうたも母親のことが大好きな子供のため、母親についてはすぐに見つかるだろうと踏んでいた。


そんなカレンの期待を裏切るように、こうたの記憶はどこまでいっても真っ暗なままだった。一瞬、こうたには記憶がないのかと思いもしたが、それは現実的ではない。


カレンはこうたの頭から手を離した。|何かが魔法をはねのけている《・・・・・・・・・・・・・》。守られている、と言ってもいいかもしれない。


片目を開けてちらりとカレンを見るノワールに首を振った。





しばらくするとこうたがうとうとし始め、ソファ席に移動させると、間もなくして昼寝を始めた。


こうたの寝息を確認したノワールは、カレンの隣の椅子にぴょんと飛び乗った。


「見えなかったのか?」


「うん。何かに遮られて記憶を覗けなかった」


「何かって……魔除けがかかってんのか?」


「たぶん……」


こうたの記憶には魔法が干渉できないようになっていた。


「いよいよ怪しいな、あいつの母親」


「とにかく、こうたくんを今日中には家に帰さないと。おばあさんが心配するわ」


「あいつを連れて歩き回るしかないな」


カレンは物音を立てないように眠っているこうたの横に座り、さらさらとした髪を撫でる。ノワールはこうたの横腹にぴったりとくっついて丸くなる。


「やっぱり優しいわね」


「違う! これは、あれだ、子供はあったかいからな」


「素直じゃないわね」


その時こうたが寝返りをうち、寝言を言った。


「おと……しゃん……ピース」


ノワールも気になったようでカレンを見上げる。


「お父さん、って言ったのかしら」


「いや、これやっぱ何かの呪文じゃねーの? 母ちゃんが言ってるのを覚えてたとか」


「聞いたことないけど、どうかしら」


これまでのこうたの発言を整理する。


母親は自分を魔女だと言っている。


空を飛び、時折こうたに邪魔をしないように言いつけ、不思議な呪文を唱えている。


あまり家には居らず、魔女の集会と言って土産の品をこうたに与えている。


そして、こうたの寝言。


こうたくらいの子供が一人でショッピングモールに来れるということは、家はそこまで離れていないだろう。


またあそこに戻って、厄介な魔法使いに会うのは気が引けた。


「オウルの野郎にはもう会いたくねえな」


ノワールはぶつぶつ文句を言っていたが、その時カレンはピンときた。


「……そっか、オウルか」


「あいつがどうかしたんだよ」


「こうたくんを家に連れて帰る前に、オウルに会いましょう」


「はぁ!?」


カレンとノワールは偶然だったにしろ、あの時こうたと三人でオウルに会ったのだ。あのひねくれた、自分勝手で、楽しければ何でもいいと考えているような、かつての弟分に。


「大丈夫。オウルに会えれば、こうたくんをすぐ連れて帰れるわ。それに、彼のことだからまだあそこに居るはずよ」


「よくわからんが、わかったよ」


カレンはこうたが起きるまで、店の掃除をして待つことにした。

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