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カレンさんは魔女なんです  作者: 陽稲(はると)
2 お母さんは魔女なんです
8/19

2-3

ショッピングセンターの中にある寿司屋に入り、カレン、ノワール、こうたの三人で食事をしていたが、カレンは目の前の光景に呆れ返っていた。


「ノワール、いい加減にしなさいよ。こうたくんが不思議そうに見てるじゃない」


「あ? 何がだよ」


「ネタだけ食べてシャリを残さないでって言ってるの!」


「でも俺が食いたいのは上の魚だけなんだから仕方ないだろ」


カレンは頭を抱えた。ノワールの寿司の食べ方は知っていたが、それはいつも他に人がいない時だったためカレンも咎めることはなかったが、今回はこうたという子供がいる。教育上良くないことは明らかだ。


「おにいちゃんどうしてバラバラにして食べるの?」


「ほら! ちゃんと全部食べて!」


「イヤだ! 俺は米は別に好きじゃない!」


「おにいちゃん、好き嫌いしたら大きくなれないんだよ」


「これじゃどっちが子供かわからないじゃない」


「お前は間違いなくおかんだな」


思わずノワールの頭をひっぱたいてしまったが、それが逆効果でノワールは意地になって結局シャリをきれいに全部残して店を出た。


「いやーおいしかったな!」


こうたと手を繋ぎ、上機嫌のノワールの後ろを歩いていた時、カレンはこちらに向けられていたものを察知してその方角を見た。ノワールもそれに気づいたようだった。


「今、魔力を感じた」


「ああ」


魔力を隠すことは魔法使いにとっては当たり前のことだ。つまり魔力を感じるということは、魔法が使われたということ、あるいは意図的に放たれたものということのどちらかになる。


「とにかくここを離れましょう。私たちはともかく、こうたくんを巻き込むわけにはいかない」


カレンとノワールは不自然にならない程度に早歩きで人混みをすり抜けていく。しかし、先ほど感じた魔力は後を付けてきて、どんどん大きくなっていく。


「くそっ、走るぞ!」


ノワールはこうたを抱き上げて走り出した。カレンもその後に続く。


「どうしたの?」


事態が読めないこうたがノワールの腕の中で困惑しているが、構っている暇はなかった。


「曲がって! 私が何者か確かめる」


「でも……」


「これでも一応名の知れた魔女よ」


「何年前の話だよ……こうたを安全なところに置いたらすぐ戻る」


ノワールは人混みの多い方に切り返し、カレンは立ち止まって振り返った。


魔力はカレン目掛けて、それが自分に向けられたものだとハッキリとわかるほどまっすぐに放たれている。


もう魔力は目の前まで迫っている。目の前の人混みのすぐ後ろ。カレンは身構えた。


しかし、その魔力が忽然と消えた。カレンは魔力が消えたところへと足を運んだが魔法使いの影はなかった。


「どういうこと……」


その一瞬の気の緩みを相手は見逃さなかった。


魔力が再びを感じた時、それはカレンの真後ろにいた。













「たく、いい加減にしろよ!」


ノワールは椅子にふんぞり返り、猫の姿だったら全身の毛を逆立てていただろう。


「いやーごめんごめん。ちょーっと驚かそうとしただけなんだけどさ」


「昔からたちが悪いんだよお前は!」


「ノワールも相変わらず怒りんぼだねぇ」


「さすがに私も怒ってるからね。反省してよオウル」


ノワールの怒りをのらりくらりと躱しながらヘラヘラとしているのは、カレンがまだ人間界と魔法界を出入りしていた頃に仲間だったオウルという男だ。


「え~許してくださいよ、姉さん」


オウルはカレンの弟分だった。しかし可愛げは全くなく、基本単独行動、ルールを守らない、そしていつもこの調子で人の話をまともに聞かない。カレンはこの男が苦手だった。


「久し振りに見たけど、相変わらず姉さんは綺麗だねぇ」


オウルが舐めるように下から上へカレンを見る。長い髪を後ろで結び、シャツは第二ボタンまで開け、タイトなパンツを履いているオウルは、そのスタイルの良さを活かして当時からモデルとして人間界に溶け込んでいた。


「今は一日どのくらい狩ってるの?」


「そんなことより何の用なんだよ」


「そんなにシャーシャー言わないでよ。それとも、久し振りに遊んであげようか?」


「上等だよ」


「ちょっとやめなさいよ! ノワールもこんなやつの相手なんてする必要ないわ」


立ち上がって睨み合う二人をカレンが宥める。ノワールは舌打ちして椅子に座り直す。


「それで、本当に何の用なの? 私たち今迷子を抱えてるの」


「迷子?」


オウルは気づいていなかったのか、ノワールの陰で小さくなっていたこうたをじっと見つめて、不敵に笑った。


「まあこれと言って用はないよ。本当に懐かしい二人が見えたから声かけただけ。でも迷子かぁ……手伝おうか?」


「いらねぇ」


ノワールは完全に敵意を剥き出しにして、今にもオウルに飛びかかりそうだった。


「そうですか。でも気になるから経緯だけ教えてよ」


カレンはこうたの言っていたことを要約してオウルに伝えた。


「ほうほう。ま、なんかわかったら教えるよ。じゃあね、こうたくん」


オウルはこうたの頭をぽんぽんと撫でると、聞き取れない声量で何かをボソッと呟き、妙なステップを踏みながら去っていった。


ノワールは三人になってから大きく息を吐き出した。


「昔からあいつは気に食わねえ」


「私も。やり方が姑息なのよ」


「で、これからどうするよ。こいつ家に帰すか?」


「とりあえず、店に連れてって頭を覗かせてもらいましょ」


それからこうたを連れて、ノワールとカレンは『喫茶ドロシー』へと向かった。

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