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カレンさんは魔女なんです  作者: 陽稲(はると)
1 カレンさんは魔女なんです
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1-2

駅前から少し離れた住宅地の一画にある戸建ての住居の一階に店を構えた小さなカフェは、木目を基調として店内は緑で溢れている。


地元の人が年齢に関わらず訪れ、可愛いパフェやパンケーキもあり、休日は席が空くのを待つ人が並んでいる時もある。


その一番奥のテーブル席に彼女とその友人は座って楽しげに会話をしていた。容姿は派手すぎず、地味すぎず、およその年齢しかわからないがそれでも若く見える。


「でもすごいわねぇ。結婚してもう50年?」


「そうねぇ。長かったようであっという間だったわ」


カレンは彼女らが見える席でコーヒーを飲みながら聞き耳を立てていた。


「こちら、ご注文の季節のパンケーキでございます」


パンケーキが運ばれてくると、わぁという歓声が上がり、二人は写真を撮っている。女性はいくつになっても女性という言葉が脳裏をちらつく。


「ねえ、お兄さんはいくつなの?」


彼女の友人が大学生くらいの店員にちょっかいをかける。


「今年で22歳です」


物腰柔らかで、人の良さが滲み出た甘いマスクの店員は丁寧に対応する。


「私たちいくつに見える?」


「ちょっとやめなさいよ。当てられても悲しいでしょ」


友人はケラケラと笑い、店員は苦笑いを浮かべてそそくさ戻っていった。女性であることは確かだが、年齢と共に遠慮がなくなっていく、その気持ちはとても良くわかる。


「なーんか若い男の子見るとちょっかいかけたくなっちゃうのよね。可愛いんだもの」


「孫だけにしときなさいよ」


それからも二人は大きすぎず、しかし店内に聞こえる大きさの声で会話を続けていた。すると、その二人を見ていた美しい青年が立ち上がってトイレへと向かった。


青年は可愛げがある顔で身長は高め。色白で痩せ型、髪の毛はサラサラの韓国人みたいな中性的な容姿をしていた。


トイレから出た青年は、ゆっくりと歩きながら、わざと視線に気付かせるように彼女らのパンケーキを見つめた。


彼女の友人が視線に気付き、青年は目を合わせてとびきりのスマイルを送る。


「こんにちは。とっても美味しそうですね」


「美味しいわよぉ。甘いの好きなの?」


案の定食いついてきた友人はとろけそうな顔をしている。


「すごい甘党なんですけど、男一人だと注文しづらくてあんまり食べれないんですよね」


照れて頭をかく青年のは、友人の母性本能をくすぐっていることだろう。


「いいじゃない甘いもの好きな男の子。ねぇ?」


「ええ。恥ずかしがることないわ。むしろ一緒に食べてくれた方が女性は喜ぶわよ」


彼女も思いの外感触がいい。


「一緒に食べる?」


友人は半分冗談、半分本気の誘いをかける。


「えぇ、そんな、悪いです……でも、いいんですか?」


「もちろんよ! いいわよね?」


「いいわよ」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


青年は遠慮気味に友人の隣に座り、彼女とは向かい合って座る。アイスのカフェラテを注文すると、男性の店員すら青年の美しさにあてられているようだった。


「ほらほら食べて」


孫を可愛がるというと失礼かもしれないが、パンケーキをお皿に取り分ける友人は母性に溢れていた。


「いただきます」


青年はパンケーキを一口食べた。


「美味しい! ブルーベリーとラズベリーの入ったソースのほどよい酸味、生クリームの少しこってりした甘味と、ふわふわしたパンケーキのほのかな小麦粉とバターの優しい甘味が絶妙にマッチしてる!」


青年が長々と述べた感想に二人は呆気にとられ、慌てたように青年はあどけない表情を作ってをもう一度美味しいですと二人に微笑みかける。


「たくさん食べてね」


二人の年配の女性は心をガッチリと掴まれているようだった。


「お二人はご結婚されているんですか?」


青年の問いに顔を見合わせた二人は、嬉しそうに笑った。


「まだまだ現役かしら?」


「社交辞令よ。えぇ、結婚してるわ。子供たちも手を離れて、孫だっているわ」


「えっ! お孫さんもいるんですか!」


青年は少し大袈裟に驚いて見せ、それを見た二人はまたも嬉しそうにしている。


「そうよぉ。若作りも大変なのよ? この人は結婚して50年になるんだから」


「正確にはもう少しでね」


「50年! 僕には全然想像もつかないです。旦那さんはとても良い人なんでしょうね」


「どうかしらね」


照れ隠しにコーヒーを飲む彼女の代わりに、横の友人がわざとらしく耳打ちをする。


「この人の主人はこの人にベタ惚れなの。もう羨ましくなるくらい」


「この年になって付きまとわれても子供がまた一人できたみたいなもんよ?」


「旦那さんはどんな方なんですか?」


彼女はコーヒーを飲んだり、パンケーキを少し食べたり、またコーヒーを飲んだり、なんと言おうか悩んでいるようだった。しかし痺れを切らした友人が口を挟んだ。


「愛妻家で働き者、それでいて子供っぽいところもある人でね。でもちょっと鈍感というか、女心がわかってないというか。なんだっけ? この前お土産って言って渡されたの?」


「恐竜の骨のストラップ」


「それは……なんというかむしろかわいいですね」


「なんだか不思議ね、男の子と喋ってる気がしないわ」


「あ、えっと、姉と妹がいるからですかね?」


「ああ、そういうことだったのね」


青年は苦し紛れの言い訳を納得してもらい、ホッとした様子だった。


「次は何をくれるのかしらね?」


友人がニヤつきながらつつくと、彼女はひらひらと手を振った。


「ダメダメ。あの人すっかり忘れてるんだから。それにどうせセンスのないものよきっと」


「例えばどんな……」


言いかけた言葉を青年は飲み込んだ。


「例えば?」


「あーえっと、この後友達と会う約束があるのでそろそろ」


「えー帰っちゃうの? 残念ねぇ」


「お代は……」


「気にしないで。またここで会いましょうね」


「ありがとうございます。隆子さんも旦那さんから素敵なプレゼントもらえるといいですね」


「あれ? 私、あなたに名前言ったかしら?」


「えっと……ごちそうさまでした!」


青年はそう言い残し、パタパタとカフェから逃げ出していった。

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