第3話 加藤雪女
加藤雪女。
俺の幼馴染だ。どういうわけか同じ高校に行くことになっている。
加藤は、小学5年に上がる前までは俺に普通に話しかけてくれていたのだが、小学5年に上がるとそもそもの交流がなくなった。それも俺が家で無能なんて呼ばれているのが原因であろう。加藤も俺が何もできない無能だと、そう判断したのだ。まぁ、実際、俺が小学5年のときはまだ勉強に集中していた時期だし、勉強がある程度できるようになったら、次はスポーツに手を出し始めたし。
そのかいあって俺は持久走にそれなりに自信がある。それは、俺がもと陸上部だからだ。1500メートルでは、4分11秒なんてタイムを持っていたりする。まぁ、加藤はそんなこと知らないか。俺に無関心だろうし。
◇
「大橋!帰ろうぜ!」
俺は帰りの支度をしていると背中をバンと叩かれた。俺はビクリと体を震わせながら、後ろを振り返った。筋肉くんだ。自己紹介をしてから俺にこうして話しかけてきている筋肉くんはクラスの男子のトップカーストにいる、と思う。その筋肉くんが俺に話しかけてくることによって俺もなんか自然にクラスのトップカーストに入っているらしい。周りの男子らに聞いた。
「ああ、分かった。それと背中叩くのやめてくれ、なんか微妙に痛い」
「おー、わりぃ。でも、背中叩かれただけで痛いって背中鍛えてないのか?」
··········背中鍛える?なにそれ、おいしいの?
「背筋をしていけば、叩かれても叩いた相手の手が吹き飛ぶくらいにはなるぞ」
··········それってラノベの中だけじゃね?叩いた手を吹き飛ばすなんてそんなん常人にはできないだろ·······
「そうだね、片腕で冷蔵庫を潰せるくらいにならないとまだまだと言わざるをえないね」
·········コイツらは一体、何を言っているのだ?この学校、変人しかいないの?普通の人いないんか?
それに片腕で冷蔵庫を潰すってそれってオールマイトじゃねぇか。オールマイトかっけぇよな!
「なぁ、学校帰りに“トレーニングジム”にでも寄らねぇか?」
·········俺はてっきりこうかと思ってた。
『なぁ、学校帰りに“カフェ”でも寄ってかねぇ?』
でも、そんなことはやっぱないのか·······。ラノベと漫画はやっぱフィクションだからな。現実的じゃないのか。今どきはやっぱトレーニングジムに学校帰りに寄るのか。地獄だろ、んなの。
「あなたたちどいてくれないかしら」
そんな俺たちの間に割ってはいるように加藤の冷たい言葉が投げかけられた。俺たちは加藤の邪魔にならないよう道を作り、加藤はその道を堂々と歩いていく。
加藤は、今日のあの自己紹介によりクラス内での評判というか、評価はかなり悪いものになった。それもあの人を見下したような言葉や態度がクラスメートたちから反感を買っているようだ。昔はあんなんじゃなかったのにな。世の中、何が起こるか分からないとはこのことだ。
女子たちからは嫌われ、男子たちからは恐れられる存在。そして、雪女という名があるように彼女は雪女なんて言われるに至った。
あだ名と呼ばれるやつなんだろうが、雪女というのは蔑称に近い。男子たちは、なんか名前を呼び捨てにしているような感覚があると言って誰もその名で呼んでいないのだが。男どもチキン過ぎる!
俺はいつも疑問に思う。加藤とは、ほんとに幼馴染なのか、と。
◇
「はぁ、疲れたわ」
私はそうつぶやくとベットに倒れ込んだ。近くにある人形を掴み取り、
「うううううううっ、やった!!!!」
ヒャハァーーーと雪女なんて呼ばれている冷淡な姿はなく、ベットの上をゴロゴロと転がっている。
(遂にやったわ!良太と同じクラスになれたわ)
私は良太があの名門校に入るという噂を聞きつけ、すぐに私もその学校に入るべく勉強したわ。そして、なんとか受かった。結構、偏差値もギリギリで落ちる瀬戸際だったのだけど·········。それも良太と同じ高校に通うためなら苦ではないわ!やっぱり、愛は勝負事に勝つのよ!
でも、私には大きな問題があるの。
それは、
「良太と話そうとすると、なんであんな冷たい言い方になるのかしら········」
自分でもよく分からない。
でも、私には一つだけ分かってることがある。それは、彼に恋をしている、ということ。それも小学5年の頃からずっと。