同じ部活の先輩
◇◇
その日の夜。
風呂から上がって絶賛身体がびしょびしょの状態で、風呂場の横に置いておいたタオルに手を伸ばした。
シャワーを浴びてすぐ風呂場から出たものだから、身体にまとわりつく水のせいで、めちゃくちゃ寒い。
俺は、身体を急いで拭いて服を着ようと試みる。
すると、普段鳴らないはずのスマホのバイブレーションの音が聞こえてきた。
早く身体を拭きたいはずなのに、足はスマホが置いてある机に向かっていく。
(誰からだ……? ひょっとして、横峯さん……?)
水滴が残る身体にボクサーパンツだけ履いた俺は、スマホの画面を確認する。
しかし、スマホの画面に映っていたのは横峯さんの名前じゃなかった。
『着信・部長』
喉がヒュッと鳴り、心臓の鼓動が早くなる。
さっきまでの胸のドキドキとは明らかに違う。
俺は恐る恐る通話画面をタップし、部長の電話を取った。
いや、取らざるを得なかった。
「……お疲れ様っす。先輩」
身体が冷えているのも忘れるぐらい、緊張している俺。
そんな俺に対して、先輩は優しく声を掛ける。
『電話、出てくれないと思ってた』
いつ聞いても優しくて包容力のある声だ。
電話越しでもわかる。画面の向こう側も優しく微笑んでいることだろう。
白河亜美先輩。
俺が美術部に入部した頃からずっとお世話になっている先輩だ。
高校生には到底見えない大人っぽくて綺麗な容姿。そんな容姿のせいで、目の下にあるほくろがエロい。
ちなみに、どれぐらいの美貌かと言うと、横峯さんと張り合えるぐらいの美しさは持ち合わせている。
誰にでも優しくかつ努力家。先輩は、俺の憧れでもあった。
そんな先輩と深く関わっていくにつれて、親近感と同族嫌悪を抱いた。
「そろそろ出ないと怒られるかなって思ったんすよ」
『だって、相澤くんは定期的に連絡取らないと絵描かなくなりそうなんだもん』
「……先輩に言われても描きませんよ」
嘘だ。
自分で言うのもどうかと思うが、俺は先輩に甘い。
それを先輩もよく分かっている。
『そんなこと言っていつも描いてくれるじゃない』
「うっさいっす」
俺が先輩に甘い理由。
それは、俺と先輩は似ているから。
話を聞いたところ、先輩もかなり昔から絵を描いているみたいだ。
昔から描いているだけあって、先輩の絵はとても上手い。ずっと見てても飽きないぐらいに。
それでも、先輩の絵はいつまで経っても評価されなかった。
誰よりも努力している先輩なのに、才能がある人達には叶わない。
その姿がどことなく俺に似てて。それでいて、可哀想で。
類は友を呼ぶ、というのはこういうことを言うのだろうか。
俺と先輩はどんどん意気投合していった。恋仲にならなかったのが不思議なぐらいに。
しかし、俺の心情の変化を堺に先輩と俺は徐々に話さなくなっていった。
『それじゃあ次は何を描いてもらおうかなぁ』
「決まってから電話してくださいよ」
『ふふふ、いいじゃない。相澤くんの声が聞きたかったんだもの』
「……すぐそういうこと言うじゃないっすか」
本当にこの先輩は。
恥ずかしげもなく男をその気にさせることをすぐ言う。
「俺、風呂上がったばっかで服着てないんで電話切りますよ」
『わーお、エッチだね。じゃあ、その姿先輩に撮って送ってよ。絵の資料するからさ』
「馬鹿なこと言わないでくださいよ……」
なんの資料だよ。エロ漫画でも描くのか?
『あはは、ごめんね。相澤くんの反応が面白くて。服、着てきていいよ』
「そうさせて貰います。先輩も、もう遅いんで早く寝てくださいね」
『うん、おやすみ』
電話を切った俺は、身体がすっかり冷えきっているのに気づいた。
さっきまで寒さの微塵も感じなかったのに。
「明日は部活行くしかないか……」
俺はそう腹を括り、服を着て暖かい布団で眠りについた。
ようやくメインキャラ全員揃いました(∩´∀`)∩ワーイ!
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