同じ部活の後輩
しばらくお互いを見つめ合った後、横峯さんは部活があると言っていそいそと荷物をまとめて教室から出ていってしまった。
(めっちゃ恥ずかしかった……)
持久走が終わったときのように、心臓はドキドキして身体は火照っている。
机に肘をついて手に頬をのせると、嫌でも顔が熱いのが体温として伝わってきた。
なんとなく、横峯さんがさっきまで座っていた椅子を見る。
彼女の笑顔を思い出し、また顔が熱くなった。
窓の外からは野球部の声が聞こえる。今日も練習ご苦労さまだ。
そんな声をBGMにしながら俺はもう一眠りしようと思ったその時だった。
「せんぱ〜いっ! こんなところにいたんですか?」
「げっ……朝比奈……」
俺のことを探しにわざわざ教室までやってきたのは、同じ中学校出身で一個下の朝比奈遥。
くりっくりの目に脳に響く程の大きな声。
茶色いショートカットの髪にミニスカ気味の制服のスカートは、元気っ子を象徴している。
「ちょっと〜! 『げっ』ってなんですか〜? 後輩に向かってそんな言い方、失礼ですよ」
右ほっぺに空気を含み、ぷくりと膨らませて怒っていることを全力で表現している。
「悪かったって……そんなに怒んなよ」
怒っている朝比奈を押さえ込もうと俺は平謝りをした。
もちろん平謝りで怒りを抑え込めるわけでもなく、朝比奈はズンズンと俺の目の前に向かってくる。
「私、今日こそ先輩に絵を教えてもらおうと思って学校に来たんですよ」
確かに朝比奈の腕にはスケッチブックと画材が入っているであろうポーチが大事そうに抱えられている。
俺は画材と朝比奈の顔を一瞥した後、何かから逃げるかのように窓の外を見た。
「そりゃあ残念だったな。今日の俺はそんな気分じゃないんだ」
『げっ』と言ったのは、決してこいつが嫌いだからじゃない。
むしろ中学時代から俺なんかを慕ってくれる良い後輩だと思っている。
じゃあなんで『げっ』なんて言ってしまったのか。
それは、こいつがしつこく部活に来いと言ってくるからだ。
朝比奈には悪いが、正直俺はもう絵なんて描きたくない。
それでも、朝比奈は俺の言うことなんて聞こえてないかのようにスケッチブックを広げてきた。
「じゃーん! 見てください先輩っ! これ、最近描いた絵なんですよ! どうですか?」
無理矢理見せてきたその絵は、黒髪の女の子が雨上がりの空の中立ち尽くしているところだった。
美術館で高校生の部金賞と飾られてあっても全然おかしくないレベルだ。
「……普通に上手い」
気づいたら朝比奈の絵をまじまじと見ていた。
朝比奈は、そんな俺の様子を見てわかりやすく嬉しそうにする。
「ふふーん! どうです? 私の絵、少しは成長しましたよね?」
「ああ、間違いない。お前が中一の時は、なんでお前が美術部にいるのかわからないぐらい下手くそだったのに」
「後者のディスはもう少しオブラートに包んでくれてもいいじゃないですか……」
確かに思ったことを素直に言いすぎたと思った俺は、カスカスな口笛を吹かせてお茶を濁し、わざとらしく話を変えた。
「そう言えば、朝比奈。お前こそ部活に行かなくていいのか?」
「あ……! そそそそそうでした! 行かないと部長に怒られちゃうっ!」
俺を探すので必死だったのか、こいつは部活に行くのを忘れていたらしい。
朝比奈は、驚きのあまりスケッチブックとペンポーチを地面に落としてしまった。
アホなのか、こいつ。
「それじゃあ、私はもう行きますね! 先輩も! いい加減部活に来ないとみんなに忘れられちゃいますよ〜!」
「みんなが忘れてもお前が俺のこと忘れないだろ」
「へへへ。バレました? 先輩が何に悩んでいるのかは私にはわかりませんが、私は先輩の描く絵が大好きですよ!」
朝比奈は、そう言って俺に指をさした後、駆け足で美術室へ向かって行った。
俺は一後輩として朝比奈のことが好きだ。
でも、俺は朝比奈とは分かり合えない。
俺はいつからこんなに妬ましく醜い人間になってしまったのだろうか。
おまたせしました!ようやく体調復活です(∩´∀`)∩ワーイ
ここからどんどん物語が進んでいきます(*'▽'*)!
いっぱい見てくれる方がいてすっごく嬉しいです(ノ*°▽°)ノ
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