まだわからない
横峯さんと友達になった次の日。
今日は昨日と打って変わって快晴だった。
雀の鳴き声がなんとも心地いい。
「おはよう、相澤くん」
「お、おはよう。横峯さん」
自分の席へ着くと、俺の顔を見るなり横峯さんは挨拶をしてきた。
昨日、俺の家で見せてきたわがままで自信家な横峯さんじゃなく、いつもの完璧ヒロインモードの横峯さん。
(横峯さん……どっちの姿が本物なんだ……)
こうして見ると、俺の家にいる時の横峯さんと、学校にいる時の横峯さんは全然違う。
顔つき、雰囲気、声色、しぐさ。
もしかして横峯さんって多重人格……?
俺がまじまじと横峯さんを見ていると、ヴーヴーとスマホのバイブが動く。
バナーにはLINEのアイコンが出てきた。
いつもの公式LINEかと思い、アプリを開いてみるとそこには見たことがないアイコンが俺のトーク履歴の一番上にいた。
『横峯紗良︰多重人格じゃないから!』
「……は?」
思わず声が出てしまった。
ちょっと待て。俺は横峯さんとLINEを交換した記憶なんてないぞ。
しかも、なんであいつは俺が横峯さんの多重人格を疑ったことがわかったんだよ。怖すぎだろ。
俺はチラリと横目で隣の席を見る。
彼女の横顔は、とても美しい。
鼻は高くて、まつ毛はこれでもかというほど長くてクルリとカールしている。よく手入れされた黒髪が、そんな姿をより一層綺麗に見せていた。
そんな横峯さんは、相変わらずクラスメイトに囲まれている。
今日も話の中心には彼女がいた。
(なんだか学校での横峯さんは話しかけづらいな……まぁ別に、これといって話す話題もないんだが……)
何故か感じる違和感を胸にしまい込み、俺はいつものようにソシャゲを始めた。
□
放課後。
みんなはとっくに教室から出ていて、ここには俺一人しかいない。
部活に行く気分じゃなかった俺は、いつの間にか教室で居眠りをしていた。
机に突っ伏して寝ていたから、ほっぺたが押し潰されて痛い。
「ぁ……相澤くん起きた?」
幻聴だろうか。
耳元で横峯さんの声がする。
俺は徐々に開けていく視界の中目視できたものは、ほんのり頬を赤くして俺と同じように机に突っ伏す彼女だった。
俺の方をずっと見てくる。つられて俺もじっと見てしまう。
「すごく……かわいい」
気づいたら、無意識にボソッと呟いていた。
すると、横峯さんの顔がみるみると赤くなっていく。
「ほえ!?」
ほっぺたを両手で包んで動揺している横峯さんを見て、俺は急に正気へ戻り自分の言ったことの重大さに気づく。
「ちちちちちち違うんだ、横峯さんっ! いや、横峯さんがかわいいって言うのは違くないんだけど、そうじゃなくて……!」
「そそそそそそうだよね! だって私かわいいし! 挨拶みたいなものでしょ? 確かに、私レベルになるとおはようって言われるよりかわいいって言われることの方が多いしさ! あは、あははは!」
「そこまでは言ってねぇよ! このお調子者め!」
……
しばらくの沈黙。
気まづいけど居心地は悪くない雰囲気だった。
「あ、あのさ。相澤くん」
「な、なんだよ。横峯さん」
横峯さんはモジモジしながら、少し言いづらそうに口をもごつかせる。
俺はゴクリと固唾を飲み込んだ。
「相澤くんも……か、かっこいいよ!」
そう言った瞬間、窓から暖かくて気持ちのいい風が流れた。
カーテンの先が横峯さんの後ろでふわりとウェーブする。
「そ、そうか……? ありがとう」
かっこいいなんて言われ慣れてない俺は、スマートな受け答えができない。
こういう時は、素直に嬉しいと言うべきなのだろうか。
照れくささを隠す方法とこの気持ちの高まりは、俺にはまだわからない。
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