美人には裏がある
◇◇
俺は今、自分の家にいるはずなのに落ち着きがなかった。
本来、自分の家というのは一番居心地がよく、一番素でいられる場所なはずなのに。
理由は考えるまでもなく、わかりきっていた。
「わ〜、これが男の子の部屋かぁ〜。相澤くん、結構部屋綺麗にしてるんだね」
そう言いながら、俺の部屋を見渡す横峯さん。
ドキマギしている俺とは裏腹に、かなりリラックスした様子に見える。
「そ、そうか……? まぁ、確かに割と綺麗好きな方かもしれないな」
俺の住処は、学生でありがちなワンルームのアパート。
部屋にはベットと勉強机と本棚ぐらいしかない殺伐とした雰囲気だ。
「ねぇねぇ相澤くん」
「……? どうした?」
横峯さんは、本棚を見るなり指をさして、何か言いたげにしていた。
「えっと〜、うーんと〜……私、漫画読んでみたいなぁ〜なんて」
そう言って、恥ずかしそうに人差し指で頬をポリポリとかく。
「ま、漫画? それぐらい勝手に取って読んでいいぞ」
意外な頼みに驚いて、少し声が裏返ってしまった。
恥ずかしそうな仕草をする割に、大したお願いじゃないな。
「ほ、本当っ? やったぁ! うふふ〜、じゃあ遠慮なく」
横峯さんは嬉しそうに、本棚から漫画を取り出す。
本当に遠慮がなさそうな姿は、普段学校で見る横峯さんとは少し違って見えた。
「うわ〜! この漫画ずっと気になってたんだよ〜! ねえ、相澤くん。やっぱり王道バトル物こそ正義じゃない?」
「え? あ、ああ。そうだな」
目を輝かせながら語り出す横峯さん。
喋ることも止まらなければ、漫画のページをめくるスピードも止まらない。
「わわわ! こっちには今人気のラブコメがっ! ひゃ〜、ヒロインの子たち可愛すぎる〜!」
ウハウハで読み進める横峯さん。その姿は、好きな漫画の新刊を読んでいる時の俺にそっくりだった。
学校にいる時とイメージが違いすぎて、どこから突っ込めばいいのかわからない。
いや、これは触れないでおくべきなのか……?
困惑している俺を置き去りにして、横峯さんは漫画を机の上に置き、こちらを振り向いてきた。
「ねえねえ、相澤くん」
「な、なんだ……?」
「私、ポテチが食べたいっ!」
「ポ、ポテチ……? んなもの、この家にねーよ。生憎俺は甘党でな。ポテチは気が向いた時にしか食べないんだ」
すると、横峯さんはほっぺをプクッと膨らませて、不満げな表情を隠すことなく全面に押し出す。
「え〜、じゃあ何かお菓子ないの?」
「チョコならあるけど……」
俺は冷蔵庫からチョコを取り出し、横峯さんの手元にポンと置いてみた。
「やった〜! ありがと〜相澤くんっ」
そう言いながら、右手に漫画を持ち、左手でチョコをつまんで口の中に放り込む。
一応、背筋を伸ばして見た目は綺麗に本を嗜んでいるように見えるのだが、よく見ると背中がプルプルしていて辛そうだ。
「……横峯さん」
「ん〜? どうしたの、相澤くん」
「えっと……なんていうか、その……学校の時と雰囲気違くない?」
ついに耐えかねた俺は、開けてはいけないパンドラの箱に手をつけた。
雨宿りさせてるんだ。これぐらいは聞いたっていいだろう。
そう自分に言い聞かせ、ゴクリと固唾を飲んだ。
すると、横峯さんは口角をにっと釣り上げて、俺の方へ軽快なステップでやってくる。
「ふっふっふ〜、バレちゃったかぁ〜」
横峯さんは目の前までやって来て、俺の胸にちょんと指を当てて、上目遣いでこう言った。
「私、相澤くんと仲良くなりたいの」
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