隣の席の横峯さん
その日は、雨が降っていた。
(洗濯物干しっぱなしだなぁ……どうせ濡れてるだろうし、後で取り込もう)
そんなことを考えるぐらいには、いつもと変わらない平凡な日。
それでも、雨というだけで少しだけ気分が下がってしまうのは何故だろうか。
しばらくボーッと、やたら耳につく雨音を意図せず聞いていたら、玄関のチャイムが俺の耳を通る。
(なんだ……? Amazonでも届いたのか……?)
俺は狭い自室をヒタヒタと歩き、ボロボロなパーカーのまま玄関へ向かった。
「お疲れ様です。って……え?」
顔見知りの配達員かと思い、いつものように軽く会釈してからドアを開けると、そこにはここに来るはずもない人物が立っていた。
「相澤くん、私のこと……わかるかな?」
目の前にいる彼女は、俺の隣の席に座っている横峯沙羅さん。
成績優秀、頭脳明晰、才色兼備。誰もが認める学年一のスーパー美少女。
大きくてぱっちりした瞳に薄くてプルプルした唇。透明感溢れる綺麗な白い肌。それに相まって、黒髪ロングがよく似合っていた。
「よ、横峯さん……?」
隣の席とはいえ、一回も喋ったことがない横峯さん。
高嶺の花すぎて、話すことすらおこがましいと思っていた俺は、横峯さんのことを観賞用としか思っていなかった。
そんな彼女が、なぜ地味でぼっちな俺の家に来たのか全くもってわからない。
「ふふ、名前覚えててくれてたんだ」
横峯さんは、長い髪を耳に掛けながらスクールバックを地面に置く。
「そりゃあ、まぁ……隣の席だし……」
「でも、相澤くん。私と全然喋ってくれないじゃん。目すら合ったことがないから、嫌われてるのかと思ってたよ」
そう言いながら、雨で濡れた髪をフェイスタオルで軽く拭いている。
横峯さんが首を拭いている時、滑らかな項に雨水が流れ、電気の光がそれを照らす。
「それで……横峯さんはなんで俺の家に……?」
「雨だったから、雨宿りしたいなって」
確かに外は傘がないと全身びしょ濡れになるくらいには、雨が降っている。
「雨宿りするのはいいんだが、今すぐ帰りたいんだったら傘でも貸すぞ?」
俺はおもむろに傘立てから傘を取り出し、横峯さんに突き出した。
しかし、横峯さんは傘を受け取ろうとせず俺の方へ一歩近づく。
「雨宿りしちゃ……ダメ……かな?」
横峯さんは、顔を真っ赤にさせて口元を隠すように両手で覆っている。
その姿に魅入られて、俺は気づいたら返事をしていた。
「いいけど……俺の部屋、何も無いぞ」
「本当に? やったぁ! ありがとう、相澤くんっ」
横峯さんは、心の底から嬉しそうに笑って、地面に置いていたスクールバックを肩にかけ、俺の部屋へ入っていった。
横峯さんは、脱いだローファーを丁寧に揃えてから俺の方を振り返る。
「お邪魔しますっ」
俺は、この時はまだ知らなかった。
俺、相澤奏多と横峯さんの不思議な関係が始まると言うことを。
はじめまして。明日葉はれるです!
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