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全部暇潰しなのさ。

作者: ウツギ。

『転んじゃったね、大丈夫?』


 その言葉の真上に、3歳くらいの男の子が倒れている写真が添えられている。子供の写真はなかなか高評らしく、コメント欄には『かわいい〜』だとか、『泣かないで偉いねぇ』だとか、そんな言葉が飛び交っていた。

 交差点で青信号を待ちながら私はスマホを片手に持ち、画面を2回タップして無色のハートマークを赤色に染める。そうやって友達のストーリーを覗いたり、適当にDMを返したりして、この長い暇な時間を潰していた。

 私にとってスマホはただの暇つぶし。特に大事なものでもないし、もちろんそれはみんなも同じ。こういうなにもない、なんでもない暇なときに使うモノ。

 ふと隣りにいた真面目そうなサラリーマンの人が前に進んだので、私も横断歩道を渡る。こうすればたとえスマホを使っていても信号が青になったとわかるから、隣に人がいるとすごく楽。

 え?歩きスマホはだめ?知らないよ、そんなの。みんなやってるし。

 横断歩道を渡りきってすぐ、焦げ臭い匂いが鼻を突いた。なんだと思って顔を上げれば、マンションの3階辺りから黒い煙が出ているじゃないか。

「やばくない?なんか燃えてる」

「あれ?なんか人居ないか?」

 あたりもざわざわと騒がしくなってマンションの周りに野次馬が集まりだしたころ、余計に煙が激しくなってそれは空を黒く濁らせる。

「たすけてー!たすけてーーー!!」

 女の人が煙が出ている部屋の窓から手をのばし必死に助けを求めていた。みんな急いで懐からスマホを取り出す。

「やばいめっちゃ燃えてる」

「投稿しよ」

 みんなカメラを起動して写真を撮り始めた。

 さっきの真面目そうなサラリーマンも。おばさんも。高校生の子だって。

 みんなのスマホは頭の上に掲げられて、あたりにはシャッター音だけが鳴り響いていた。

 私も何枚か写真を撮る。

 大丈夫でしょ。みんなやってるし、あの人は死なないだろうし。別に私が通報しなくてもさ、誰かがきっとやってくれるから。


 写真を撮ったあと、私は野次馬の大群を抜けて自分の家へと足先を向けた。

『やばい、家の近くのマンション燃えてた』

 写真も添付して、すぐさま投稿する。すぐに反応があった。たくさんコメントも書き込まれる。

『やばくね?』

『大丈夫?気をつけてね!』

『怖え〜』

『人居るじゃん、大丈夫かなぁ』

 こんなのただの暇つぶし。私にとっても、みんなにとっても、そう。


 自分以外のコトなんて


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか現代社会に対する皮肉っぷりがすごく好きです、私もそろそろ物語書かなきゃ、
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