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第三章 第10話 カーヤとコーネル 2

 

 まずい。非常にまずい。流れとはいえこんな可愛い娘と腕を組んで歩くのはどう弁解しても説得力に欠ける。オリビアがランドルフのお陰で疑心暗鬼になっているこのタイミングは本気で洒落にならない!


「コーネルさん? コーネルさん!?」


「えっ、え? あ、ごめん」


「この獣、魔物ではないんですか?」」


「!? 何でわかったの?」


「ふふふっ。やっぱり。二股狼ですよね! 」


 考え事をしていて頭が働いていなかったが、この娘観察眼が鋭い。さっき何となく言ってしまった偽名も、ひょっとしたらばれているのかも知れない。


「巧みに偽装してますが尾の付け根に小さいリングが見えました」


「よく気づきましたね。昔ある人に変装術を習った事がありまして、それを応用したものです」


「なるほど。巧くできていると思います。テイマーとはいえ街中に魔物は目立ちますものね」


「テ、テイマー? うん。そうですね。カーヤさん鋭いですね」


「職業柄、細かいところに目がいくんです」


 はにかむ表情があまりにも無邪気で、思わずドキリとしてしまう。見せ物小屋や公園も一通り見るがあの鴉頭はいない。初日に見つかるはずも無いのだが思わず落胆してしまう。


「ここにもいないみたいだね。カーヤさん街の案内ありがとう、主要箇所はこれで確認終わったはず。安全なところまで君を送って、宿に戻る事にするよ」


「えっ! もうですか? まだまだ案内したい場所はたくさんありますよ」


 困った顔が可愛いくて、思わず着いて行きそうになる。何とか言い訳を作りやんわりと断る。


「では、最後に」


 とナスウェル名所【魔力仕掛けの時計台】を提案された。地中から湧き出る天然の魔力で動く【魔力仕掛けの時計台】では、とある御利益があると噂があり、この時計台目当てに一定の層の人々が集まって来るのだそうだ。コルセイは最後にカーヤと共に時計台へ向かう。


「カーヤさんここって……」


「はい。たくさん人がいますよね。います?  探し人さん」


 見渡す限りそこにいたのはカップル、カップル。カップルに次ぐカップルだ。


「あ、うん。いなさそうですね」


 動揺し、声が上擦りそうになる。黒髪の美少女は何を考えてここに来たのだろうか? カーヤはコルセイから少し離れると、欄干に背中を預けコルセイと向き合う。


「コーネルって名前偽名ですよね? 本当の名前……教えてくれませんか?」


 やはりばれていたか。トラブルに巻き込んではいけないと偽名を使ったが、勘の鋭い娘である。かえって申し訳ない事をしたかもしれない。


「やっぱりバレてたね。俺の名前は ――」


 名前を告げようとした所で少女の後方に見慣れた人影を見つける。相手も気づいたようでこちらに顔を向けた。


「あら、コルセイちゃん! こんな所にいたのね」


ランドルフがこちらに手を振りながらこちらに向かう。後ろにはオリビアも見える。


「あっ!」


ランドルフがコルセイの前に着くと再び大きな声を上げる。


「アヤカやっぱり生きてたのね! 嬉しいわ~。コルセイちゃんアヤカを見つけてくれてたのね!」


ランドルフがアヤカに抱きつくと双方より間抜けな声が漏れる。


「「えっ」」


「コルセイなの?」

「あ、うん」


「あ、アヤカなの?」

「……」


顔からは理由のわからない大粒の汗。アヤカは……親の仇を見つけたような視線をコルセイに向けてくる。


「あら、何か変な雰囲気ね。久しぶりにあって喧嘩でもした? それにしても愛を誓う時計台前で二人で何をしてるのかしら?」


「「……」」


コルセイが気まずさから場を離れようとすると、その後ろには鬼の形相をしたオリビアが待ち構えていた。


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