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第ニ章 第40話 飛ばされた先には

 

「グッゥゥゥゥ」


 敵意を前面に獣の如く唸る。取り囲んだ兵も怯んではいるが、この場を乗り切るにはコルセイを殺すしかない。


 どの兵も緊張した面持ちでコルセイに迫る。防御を固めジリジリと迫ってはいるが数秒後にはコルセイは敵の間合いに入ってしまう。


「ダメ、間に合わない!」


 遠くでオリビアが声を上げる。兵の一人がコルセイに向け剣を振り下ろす。


 ゴッッ!


 コルセイの足元が勢いよく隆起する。突然の事にその場にいる者全てが状況を把握できない。


 風を切り、弾き飛ばされるコルセイ。取り囲んでいた兵も当初は目で追っていたが、渓谷の上に弾き飛ばされた身体はあっという間に目で追えなくなる。


「おい、死神を見失ったぞ!」

「探せ! 一人で行くな、取り囲むのだ!」

「渓谷の上だ! 上を探すのだ!!」


 この機を逃しては行けないと白銀騎士団が必死にコルセイを追い渓谷の上へと駆け上っていく。谷底はあっという間に静かになり、残された者はコルセイにやられた兵と負傷した兵を残すのみとなる。負傷兵の呻き声が響く暗闇の中で谷底に落とされた岩の影からシモンズが腰を落とす。


「小隊長、最後の援護です。どうか上手く逃げてください」


 何が起こったか理解できないコルセイはただ宙を掻くばかりである。


 敵を殺す事だけに考えがいってしまい、気付けば敵に囲まれており、殺される寸前であった。敵と距離を置いた今でも相変わらず敵に対する害意が凄まじく、理性を意識的に保とうとしないと我を忘れそうである。


 飛ばされた勢いが無くなり、落下時に伴う独特の内臓の浮遊感を感じながらコルセイの目の前には生い茂った深い緑が目の前に迫る。


 ザザザザザザッ! ドッ!


 木々がクッションになり、落ちた先が土であったのが幸いだった。何とか死ぬ事は免れたようだ。意識は何とか保ってられるものの、起きあがろうとすると身体中に痛みが走り、腕を動かす事もできない。不幸中の幸いなのは痛みでさっきまで激しい衝動に支配されない事だろうか。


(まずいぞ。敵に見つかったらそれにて終了だ。ダレスとオリビアに期待したいが先程までの乱戦では少し難しそうだ。というか誰にも見つからなくても死ぬのではないか?)


 コルセイは危険を承知で意識だけを二股狼につなげようとしてみるが特に反応もない。飛ばされたのは自分だけのようだ。


 もしかしたら痛みで理性が保てている訳ではなく、使役する魔物が近くにいないから理性が保てているのかもしれない。コルセイが漠然とそんな事を考えていると茂みで誰かが動く音がする。コルセイは咄嗟に身構えようとするが全身に痛みが走り動けない。


(これは終わったかもしれないな)


 茂みより現れた者は全身に鎧を身につけてる……男? のように見える。男はコルセイを見つけると仲間を呼ぶ訳でもなく何かを話しかけるわけではなく静かにこちらに向かい歩いてくる。


 男はコルセイを上から見下ろす。どうやら顎を手でさすっているようだ。男の顔を見ようとするが男の立ち位置とコルセイの角度からでは確認する事はできない。やがて男はコルセイの顔近くに腰を下ろす。


「何が落ちたかと確認に来れば、なんだお前か」


 聞き覚えのある声。いや、この憎たらしい声は。


「ガ、ガーラン……ド」


 落ちた衝撃か戦闘の傷かはわからないが声を出す事も難しい状態だ。ガーランドは髭をさすり何かを考えるとおもむろにコルセイを担ぎ、静かに歩き始めた。


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