第二章 第30話 サリウスが去った後は
ダヌムの部下が扉を閉待ったのを確認すると同時にダヌムは声のトーンを下げ、サリウスがいない会議を始める。
「薄気味悪い奴め。見ているだけで不快な思いをさせるわい」
ダヌムは懐に手を伸ばすと葉巻を取り出す。部下がすぐさま葉巻に火をつけるとダヌムは一呼吸で肺にたっぷりと煙を入れ口の中で転がすと、旨そうに煙草の煙を吐き出す。
「ジョッシュ。ヨルムとミドガーは上手くやっとるんだろうな?」
ジョッシュと言われた男は青年と言われる頃合いを少し過ぎたほどの年齢のようだが、年齢以上に落ち着いた様子から大人びて見える。
「はっ。ヨルム、ミドガーは指示がございました通り、ガーランド討伐に向かっております」
「奴等は正直好かん。しかし、後腐れがなくて良い。金、金とうるさいが金さえ払えば大抵の事は何でもこなす」
「確かに。今回の作戦には奴等のようなものが適任。しかし、奴等を動かすには相当の金が必要かと。国から正式な騎士団に任命されたとはいえ、懐事情が厳しい白銀騎士団が、どのように金を工面されたのですか?」
「ふん。そんな事は気にしなくて良い! と言いたい所だが今回でガーランドも終わる。いいだろう教えてやる……ヒエルナだ」
「ヒエルナですと? あのヒエルナですか?」
「ああ。ヒエルナの一部の貴族が何やら企んでいるようでの。このロザリアにもちょっかいをかけようとしているようだ」
「まさか!? ダヌム様はロザリアに弓を引くおつもりですか?」
ダヌムはジョッシュに火のついた葉巻を指で飛ばすと、頭の悪いこどもを諭すようにいやらしい声を出す。
「馬鹿者。利用しているに過ぎん。ヒエルナが何を企んでいようとヒエルナの軍隊があの山脈を超えてくるのは不可能だ。大方、私を使い間接的に内政干渉する足掛かりを作ろうとでもしているのだろう」
「なるほど。御見逸れしました」
機嫌良く懐に手を伸ばすとダヌムは二本目の煙草に火をつける。美味そうに煙を肺に入れるとジョッシュに向けて煙を吐き出す。
「金だけ貰った後で知らぬ存ぜぬを突き通せば良い。金の流れに証拠もないしな。ところで二人からは何か報告はあったのか?」
「いえ、まだございません」
白銀騎士団を分断しての作戦中に狙ったかのようにスタンピートが起き、黒狼はスタンピート討伐の名目でジマの古城に向かって進行中。あまりにもタイミングが良すぎる。
「ガーランドめ。大方この間のヒーラー部隊を見捨てた事への仕返しだろう。しかし我らに刃向かうとは愚かな事をしたものよ。しかも、殿下を巻き込むとは作戦としては下策中の下策」
「しかし、ダヌム様。今回の事件、ガーランドがやったという明確な証拠はございません」
ダヌムは葉巻の煙を目一杯吸い込むとジョッシュに向け再び煙を吐き出す。重たい瞼を上げ目を大きく開けると気分悪そうに話を始める。
「アイアンホーネットが無闇に人を襲うのは普通ではありえん。大体裏に術者やレリックが関係しているはずだ。片割れの白銀騎士団が合流するまでに、私を討ち取ろうとでも考えているのだろう。もちろん私の予想であり、確かな証拠はない。しかし、だからこそのヨルムとミドガーではないのか?」
「はっ。ご慧眼御見逸れしました」
「何か掴めばそれをきっかけに黒狼を弾劾すれば良い。もし出なければ……それはそれだ。我ら白銀騎士団は磐石の体制の元、殿下と共に歩まねばならない。その為にもヨルムとミドガーを急がせろ」
「はっ」
ダヌムは顎でジョッシュに手を出させると火の付いた葉巻をグリグリと押し付ける。
「捨てておけ。お前も余計など考えずにガーランドの尻尾を掴む事だけ考えろ」
「はっ」
煙草は火が消し切れておらず、火はまだ燻っている。ジョッシュは表情を変えずに掌の煙草を握りつぶす。ダヌムは横目でそれを見ると不機嫌そうにドアを後にした。




