第一章 第6話 ちょろい
呆れた顔のランドルフに少し残念そうなカルディナ。木陰では頭に濡れタオルを置かれたコルセイが完全に伸びている。冷たい視線を送ってくるランドルフにカルディナは声のトーンを下げて言い返す。
「……もちろん全力じゃないわよ」
「わかってますよ。でも何ですかこれ? 普通に考えて隊長の一撃を受け止められる新人なんていないですよ」
「だから、わかってるわよ。でも、確かめたかったの! こいつはスタンピートで戦っている時、一瞬だけど魔獣の一撃を止めていたわ」
「見間違いじゃないんですか? あのルインズモスの一撃ですよ? 私は、今でも隊長が後ろから仕留めたあとの単なるタイムラグだと思ってます」
「あの獣を神槍で仕留めた手応えは確かに感じた。でも、私は何かしらの力で獣の動きが止まった所を仕留めたと思っている。コルセイが何をしたのかはわからない。でも、何かをした事は間違いないと私は確信しているわ」
興奮するカルディナの機嫌を損ねないようにランドルフは控えめに質問する。
「それは、コルセイが隊長の探している人物という事ですか?」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。ただ、そうだった時はこいつには役に立って貰わなくてはならないわ」
「そうですか。コルセイちゃんもそろそろ目が覚めるでしょう。詰所に戻りましょうか?」
「そうね。これからが楽しみだわ」
ランドルフはコルセイを抱き上げるとそのまま軽々と抱え、カルディナと共に歩き始めた。
※※※
ヒエルナ詰所
「私達はダンジョンに潜る事にしたわ!」
命令は突然だった。ぶん殴られた翌日にいきなりダンジョン探索である。不満全開でオルタナに助けを求めるが速攻で目を逸らされる。
「私は只の一兵卒で、その様な労働強度の高い仕事は……」
反論したいが自然と声が小さくなってしまう。昨日の一件でカルディナはすっかり恐怖の対象になってしまった。カルディナは鋭い目つきでコルセイを睨むが、流石にばつが悪いのか、すぐにコルセイから視線を逸らす。
「昨日の事は悪かったと思ってるわ。でも、私の隊にいるという事はそういうことよ」
詫びているのか詫びていないのかよくわからない事を言った後に、カルディナはこちらに向け、何かを投げてよこす。
「おっ!」
「昨日の詫びよ。微力だけど貴方を守ってくれる。さっ準備するわよ!」
カルディナは早々にドアより出て行く。渡されたものは小さい剣のペンダントであった。投げてよこした後の少し恥ずかしそうな表情のカルディナを見て、昨日のことをなかったことにし、コルセイはまたカルディナを可愛いと思ってしまう。
「コルセイってほんとちょろいよなぁ」
「ほんとよねぇ。絶世の美女とはいえ、あれはないわ」
オルタナとランドルフは顔を見合わせ呆れている。
「な、何言ってるんですか! だから違うって!」
呆れを通り越して憐れみの表情を向ける二人。
「ただ」
「「ただ?」」
「そんなに悪い人ではないのかなぁって思ったりして」
「「ちょろいわ~」」
そう言い残すとオルタナとランドルフは呆れた表情のままコルセイに背を向ける。二人はそのまま振り返ることなく詰所を後にするのであった。