第二章 第25話 墓所へ
ロザリア王国近くの墓所
墓所に無数に集まる白い塊、否。スケルトンの大群である。大群はある場所を目指しており、砂糖に群がる蟻のように数を増やし、尋常ではない速度で群れを成す。まるで、氾濫する濁流の如くのようである。
行き場を失ったスケルトンを後方のスケルトンが押し倒し、その上をさらにスケルトンが歩く。まさに混沌と言う言葉がピッタリの状態であろう。もちろんスケルトンが向かう先とはコルセイとダレスの元である。
「な、なんだこれは!? どっど、ど、どういう事だ? あっ、だ、ダレスー!」
迫り来るスケルトンに圧倒されていると、いつの間にかダレスがスケルトンの波に飲まれ、遥か遠くに押し流されている。スケルトンは二人に危害こそ与えないものの、その進行を止める事は無い。いつの間にか足元を救いあげられたコルセイは一瞬でスケルトンに担ぎ上げられると凄まじい速度で移動し始めた。
「何じゃこりゃー」
あっという間に墓所は見え無くなり、揉みくちゃにされながらやがてコルセイは意識を失った。
※※※
時は少し遡る。
買い出しの翌日。夕方にコルセイとダレスは墓所に向かう。コルセイのすぐ背後からは全身鎧にフェイスマスクのリュケス。
「で、何をするんだ?」
ダレスがコルセイに顔を向けぶっきらぼうに言う。
「悪いな。墓地まで少し時間がかかる。順序を追って話すから少し聞いていてくれ。まず、結果から言うと俺にも魔法を使う事ができた」
「おい、マジか! 知っているとは思うが魔法は先天的要素が強いから後天的には難しいと言われているんだぞ。どんなカラクリを使ったんだ」
ダレスの驚きにコルセイは少しだけ得意げな顔を見せる。
「ヒエルナにいる頃にゴブリンを使役していた話しを覚えているか?」
「ああ、ヒエルナに置いて行かれたゴブリンな」
「ああ、ゴブ。無事でいるかな……。っておい、罪の意識に悩まされるからそういうふうに言わないでくれ。そのゴブリンを通して魔力を送った際に通常では起きない腐食? あるいは劣化の能力を持ち物に付与させる事ができたんだ。その時はアイテムを使って魔力を送ったけど、今の俺ならスケさんに直接魔力を送り込んで擬似的に魔法が使えるんではないかと考えたんだ」
「なるほど。それで、なぜ墓地なんだ?」
「今使えそうな魔法は三つ。実は二つはもう試している。一つ目は【恐怖】人物鑑定屋の本では【闇撫】とか言ってたけど。俺の周りにある見えない靄を具現化、さらに周囲に撒き散らすイメージを加える。実はさっき具現化のイメージだけするつもりが、知らぬ間に外へ靄が出てしまって……。馬が泡を吹いたり、一部の兵が気絶したりとちょっとした騒ぎを起こしてしまったんだ」
「昼間の騒ぎはお前だったのかよ……。勘弁してくれ」
「オリビアが収拾してくれなかったら本当にやばかったかもしれない。味方のいるところでは二度と使わないよ」
「皆のお前の評価が更に下がったな」
「あぁ。シモンズさんに初めて怒られたよ。反省している」
「それで二つ目は?」
「これは上手く行かなかったんだが【形態変化】あるいは【部分強化】かな。ダレスは知らないかもしれないけどスケさんは元々純粋な人型ではなかったんだよ。何故今の形で落ち着いたかは正直俺にもわからない。けど、部分的に強化できたり変化できたりできないかな? と試してみたんだ。上手く行かなかったけど……。たぶん魔力以外の条件が何かあると思うんだ」
「ほぉ。何か当てはあるのか?」
「一応ある。それも墓場で試してみようと思う」
「なるほど。で、最後は?」
「ああ、これができたら正直一番戦力増強になる。ただ、これができてしまった場合、ますます人間をやめる事に繋がる。できればお前とオリビア以外には言いたくない」
「自分で言うのも何だが、俺もオリビアも口は固い方だ」
街中から続く整備された道を終え、なだらかな丘に差し掛かる。この先に旧墓地があるはずだ。コルセイは行き先を確認すると話を続ける。
「【眷属化】だ。スケさんを俺が、その他のアンデッドをスケさんが使役する。スケさんがどのアンデッドをどれ位使役できるかは全く分からないけど、スケさんのアンデットとしてのポテンシャルを考えると結構いけると思うんだ」
「なるほど。そこのスケルトン自体はコルセイの能力自体に縛られてはいるものの、ポテンシャルは高そうだ。これは良い実験ができそうだな」
「ああ。この間ガーランドに見せられた反則級の技を考えると、俺が勝つには数しかないという結論に至った。数の暴力でガーランドをねじ伏せる!」
「何が数の暴力でねじ伏せるだよ。一対一で戦ってやれ」
「俺たちは傭兵だろ。勝ちに手段は問わない? だろ?」
「まぁ確かに」
話に区切りがつき、丘を登り切る。丘の上からは夕闇の旧墓地が見える。これからの時間は人外の時間だ。
「それでだな。ダレスについてきてもらったのにも訳がある。【眷属化】に関してだが、少し不安がある。魔力の暴走やスケさんを抑えきれなくなった場合や、俺に不足の事態が起きた場合は助けて欲しいんだ……頼めるか?」
ダレスは鼻で笑うと即答する。
「馬鹿かお前は。何を水臭いことを言ってるんだ」




