第二章 第20話 城下町ビーマス
城下町ビーマス
ロザリア王国麓に広がる城下町ビーマス。王国一の街であり、人の出入りも激しい。商業も盛んであり、海路と陸路がつながるビーマスでは金さえ有れば一通りの物は手に入ると言われている。
一行はコルセイとオリビア、ダレスに大きな荷物を持った数人の部下。
黒で揃えた厳つい出立ちの集団にダレスの巨漢、オリビアの美貌は人通りの多いビーマスでも視線を集める。チラチラと盗み見る者が大半であり、じろじろとこちらを見る者はいない。そんな一行を見る若者二人がこそこそと話をしている。
「おい。あの女の子可愛くないか?」
「おっ! 確かに。しかし、あの装いは傭兵団だ、絡まれたらやばい。ジロジロ見るなよ」
「でも、あの青い髪、透き通るような白い肌、ミステリアスな瞳。ドンピシャタイプなんだよ。例え殴られてでも俺は声を掛けなくてはいけない気がする」
「確かに。このビーマスであの娘ほど可愛い娘はそうはいないよな。よし声掛けに行……かないな」
「おいどうしたんだ? びびったのか? 行こうぜ!」
「馬鹿! もう見るんじゃない! 俺はまだ死にたくはないぞ。あの巨漢の男の後ろにいる奴が見えないのか?」
巨漢の男の影に潜む悪魔を確認する。
「ヒッ!」
「黒狼だ。そしてあの男の目つき、体格、負のオーラ。間違いない死神コルセイだ」
「ヒィィ。に、睨んでる。死神の女だったのか。は、早くあっち行こうぜ!」
先ほどから何度このやり取りをみただろうか? もちろん、話かけようとしてくる者などもちろんいない。人混みの中を歩いているのに、進む先から人がいなくなる。
コルセイの前には真っ直ぐに空白の道ができていた。
自分が原因で人がいなくなっているのを理解すると、コルセイは苦虫を噛んだような表情をするのだが、その表情を周りの者が見る事によって、誰もいない道はさらに距離が伸びる事になる。
「コルセイはこの二年間で虐殺でもしたの?」
「そんなわけないだろう! オリビアまで酷いじゃないか!」
「そ、そうね。でもあまりにも街の人が貴方を避けるから」
「俺の方が聞きたいよ! ダレスなんかお前知らないか?」
「お前が何をしていたかはお前にしか分からないだろう。しかし、お前が【死神】と兵から言われているのは知ってる」
「はぁ? 死神? 俺が何をしたって言うんだよ……」
コルセイのおかげで混み合った街中でも鍛冶屋まですんなりと進む事ができた。しかし、コルセイはショックを受け、ダレスとオリビアが話しかけても俯いたままである。
「じゃあ、俺たちは素材を置いたら食料の調達に向かう。コルセイとオリビアは鍛冶屋で注文が終わったら適当に時間を潰してくれ」
「わかった。ここまで運んでくれてありがとう。また後で」
ダレス達と別れ、コルセイとオリビアは剣と盾が重なり合う看板が目印の鍛冶屋のドアを開く。
「いらっしゃ!? ――た、頼む!? 命だけは助けてくれ」
ガタイの良い、厚手のエプロンをかけた鍛冶職人が槌をぶん投げると尻餅をつく。
「いや、そういうのもういいんで。やめてもらっていいですか?」
コルセイは冷たく男に話しかけるとすぐに男は我に返る。男はゆっくりと立ち上がり服に付いた埃や屑を落とす。
「何だ客かよ? 殺されるかと思ったぞ!」
「勝手に勘違いしたのはそちらですよね? そんな事より仕事をお願いしたいんですけど宜しいですか?」
「あ、ああ。それで何をご所望で?」
コルセイとオリビアは手に持ったアイアンホーネットの素材を鍛冶屋に見せる。
「これで私とそこの男の防具を仕立てて欲しい」
「お、アイアンホーネットの外殻か? 上物じゃないか。しかし、素材は良いが、見た目に反して使える場所が少ないからな、素材の量が必要だし手間がかかるぞ」
オリビアはドアを開け、外に並べられた袋の山を見せる。
「おいおい凄い量だな。巣でも丸ごと退治してきたのか? これだけあれば問題ないな。二人分で金貨二十枚だ」
金貨二十枚という金額にコルセイは少し怯む。月に稼げる金額が金貨四十枚程度。払えない金額ではないが、ひと月の生活を考えると少し躊躇してしまう。難しい顔をして悩んでいると横からオリビアが鍛冶屋に答える。
「結構よ。後これでショートソードを二振りお願いできるかしら?」
コルセイは咄嗟の事に目を見開く。そんなコルセイを見てオリビアはウインクすると続けて厚手の布に丁寧に包まれた黒鉄色の素材を鍛冶屋に見せる。
「これは! アイアンホーネットの女王じゃないか? すげえな仕留めたのか?」
「いえ、体の一部よ。使える?」
「ショートソード二振りなら問題ないぜ。……なぁ、これは相談なんだが、クイーンの素材の余り俺にくれないか? 条件を飲んでくれるならショートソードの分の値段はチャラにするぜ」
どうしたものだろうか? コルセイはオリビアに顔を向けるオリビアはニコッと笑いかえす。
「構わない。その代わり業物に仕上げて」
「おお。任せてくれ! しばらく店を閉めてこの仕事だけに専念させて貰うぜ!」
鍛冶屋は店に入ってきた時と同一人物とは思えない満面の笑みで答応える。
「おう。これはいい仕事を貰ったサービスとして聞いてもらいたいんだが、この先にある人物鑑定屋にそこの旦那を診てもらったらどうだ?」
「俺?」
「そう、あんただ。俺はこう見えて、ひい爺さんがエルフでな。魔法が使える訳ではないんだが薄っすらと魔力の流れなんかが見える。あんたの周りなんか漂ってるぜ。俺が驚いたのもそれが原因だと思う。心あたりなんかあるんじゃないか?」
「うーん。そういえばこんな扱いを受けるようになったのはこの大陸に来てからだった気がする」
「その漂っているものも魔力なんだろうけど、どういったものか理解できれば、これからできるショートソードにも上手く使えるぜ! クイーンの素材は魔力を通すからな」
「武器の事も魅力的だけど、その前に俺自身がどうなってるのかはっきりさせたい。ありがとう。この後行ってみるよ」
「そうした方が良いぜ。今のお前マジで恐怖を感じるからな。武器はおおよそ十日でできる。明日から十日後の今ぐらいの時間に来てくれ」
「わかった。では十日後」
コルセイとオリビアはドアを開けると満足そうに鍛冶屋を後にした。




