第二章 第19話 休息
小刻みに規則正しい揺れを感じる。どれくらいの時間を眠っていたのであろうか? 心地よい枕と心地よい振動が相まって深く長い間眠りについていたように感じる。ゆっくり目を開けてみれば目の前には青髪が揺れ、整った顔立ちの女性が目の前にいた。
「あっ、オリビ――!」
コルセイが勢いよく体を起こす。ゴツッ! と硬い音がし二人して頭を抑える。オリビアが目を覚ますまで膝枕をしてくれていたようだ。突然の状況に驚きながらもコルセイはオリビアに謝る。
「ごめん」
体を起こし椅子に腰を沈めると目の前には仏頂面をしたダレスが座っている。どうやら馬車にて移動中のようだ。
「体は大丈夫か?」
体を一通り確認するが、特に大きな怪我はない。戦闘でボロボロになっていた服も動きやすい服に着替させられており、戦闘で付いた汚れや汗も綺麗に拭われている。
「これは? オリビアが?」
「そう、傷の手当てをしたから次いでに」
「そっか、ありがとう」
(ま、まさか着替えも!? いやいやいや。しかし、次いでにと……そうなるとオリビアは俺の)
「……安心しろ。着替えは俺たちでやった」
気持ち悪い顔をしていたコルセイに間髪入れずにダレスが言い放つ。
「そ、そうだよな。俺だってそう思っていたぜ」
コルセイの気色悪い想像で室内には微妙な空気が流れる。コルセイは空気を紛らわせる為に無理矢理話題を変える。
「そういえば俺と別れた後はどうしてたんだ?」
「その話の前に。コルセイ言わせて。ありがとう」
「いや、いいんだ。オリビアが無事で良かったよ。最後はダレスとガーランドに助けられちゃったけどね」
コルセイを正面から見据えるオリビアにコルセイは気恥ずかしさを感じ、思わず目を逸らす。
「俺からも礼を言う。お前がいなければ俺たちは全滅していた。ありがとう」
「やめろよダレス。最後は俺もお前に助けられただろ。こちらこそありがとな!」
ダレスも目を逸らさずにコルセイの目をじっと見ている。黒狼傭兵団の面々は感情をストレートに表現する者が多い。死が近くにある分、その時その時に重きを置いているのかもしれない。慣れない場面で自分の顔は赤くなっていないかだろうか。
「そういえばガーランドは?」
「お前たちは休んでろ! と言ったままシモンズさんとどこかに行ったわ」
「シモンズさん? そうかガーランドを呼んだのはシモンズさんだったのか?」
「ダレス、クイーンはどうなったんだ?」
「クイーン? アイアンホーネットの女王の事か? そうだな、ガーランドがレリック(杖)を使ったところまでは覚えているか?」
「ああ。捕縛したのか? ガーランドのデタラメな強さからの一連は何が何やらって感じで正直現実じゃないんじゃないかと思ってしまったよ」
「ガーランドが強いのは私達も知っていたけど正直あそこまで強いとは思わなかったわ。杖はガーランドの所有物でかなり高い金額で購入したそうよ。噂では金貨四千枚って。一般の兵士なら数百人は雇えるわね。相当高価な物には間違いない」
「うわっ。まじで」
「うん。しかも使い捨てだって」
「はぁ!? あの杖は何だったんだ?」
「わからないわ。ガーランドの考えを理解してるのはシモンズさんだけだと思う」
「ダレス。ちなみに今後の俺たちの予定は?」
「しばらくは休息だ。元々お前が休息なのにこちらに飛び出してきたんだろう? ガーランドにあの馬鹿をしっかり見張っとけって言われた」
「はぁ。何だかなぁ」
「コルセイは休んだ方が良い。拠点に着いたら私と買い出しに付き合って」
オリビアはまたもや真っ直ぐな瞳でこちらを見つめる。馬車の中で距離も近く、自然と顔が熱くなる。
「あ、うん、もちろん。何を買いに行くんだい?」
「後ろの窓を見て」
馬車の後部座席より窓を覗くと今回仕留められた山のように積み上げられたアインホーネットと大人と同じくらいのクイーンの腕であった。
「これでコルセイの装備を作りに行く」




