第二章 第7話 その頃
ヒエルナ某所
「ねえ、ランドルフ?」
「何ですか? 隊長?」
「どうして私達がこんな事にならなきゃいけないの!!」
カルディナとランドルフの周りを囲む無数の全身鎧。カルディナは右手の巨大なランスを振り回すとこちらに向かってくる全身鎧の人間を薙ぎ倒す。
「さすが隊長~。異端審問官にも全く動じないないなんて。私が惚れ込んだだけの事はあるわ~」
緊張感のない発言にイラっとしたカルディナはランドルフの筋骨隆々の脚に鋭い蹴りを喰らわせる。
「ああ~ん。痛い~」
「馬鹿言ってないで。早く切り抜けるわよ! もたもたしてるとあの髭がきて……来たわ」
鎧姿の集団の合間を抜けて出てきたのは黒い全身鎧を纏い厳つい顔をした男。異端審問官の【煉獄】と名高い無慈悲の大隊長である。
「カルディナ・ディ・ヒエルナ。お前を国家叛逆罪の疑いで捕縛する!」
※※※
時は少し遡る
「コペルニクスそれは間違いないんだろうな? 発言が嘘だった場合、君だけの進退でどうにかなる話ではないぞ?」
男はコペルニクスと同様の仕立の良い礼服を着ているがコペルニクスとは違い襟元には金色の薄いラインが入っている。
「間違いありません。音声は残す事はできませんでしたが証拠はこちらに」
内ポケットから手のひらサイズの金属の箱をコペルニクスが取り出す。金属の箱をコペルニクスが縦横に捻ると箱は展開され奇妙な筒が現れる。筒は数瞬の間を置き、壁に映像を映し出す。映し出したのはコルセイがリュケスに咥えられたシーンからオルタナ、アヤカとやり取りをし皆で砦に入って行くまでの一連の映像であった。
「こ、これは!? にわかには信じられん。しかし、この映像だけで断言するには些か厳しい部分もある」
「副長官がそう仰るかもと考え、今日はある方を連れて参りました」
「どうも、どうも」
「ワ、ワルクーレ!……殿」
異端審問の本部にいるはずが無い予想外の人物に副長官も驚きを隠せない。
「いやいや。異端審問の方々が私に対してあまり宜しくない印象を持っているのは私も存じ上げております。しかし、それは風評被害でございまして、私も祖先を救って頂いたこのヒエルナに何かできないか常に何かを探しているのです」
(白々しい事を)
意外な訪問人物に副長官が驚いていたものの、冷静さを取り戻すと嫌悪感に満ちた表情を隠さず言い放つ。
「これは、これは。反王族派筆頭貴族のワルクーレ殿。今日はどのような要件で?」
「手厳しいですな。コペルニクス君に呼ばれてここに来た事を忘れて貰っては困りますよ」
副長官がコペルニクスに視線を転じるとコペルニクスは少し緊張した面持ちになる。ワルクーレは二人のやり取りに笑みを浮かべると副長官に話を続ける。
「先日のスタンピード調査に対象の少年が参加しており、その際にゴブリンの死体が一つ紛失しております。ゴブリンの死体などに如何程の価値もありませんが、街中に持ち込まれたとなっては話が別です。しかも、それがとある王族の屋敷に持ち込まれたとの情報がありました。そこで我々が調査したところこのような物が出てきました」
ワルクーレが副長官の机に向け数枚の念写写真を投げつける。
そこにはランドルフとコルセイがカルディナの屋敷に入る姿と小柄な死体袋が屋敷に持ち込まれる姿が写されていた。
「この死体袋の中身は一体何が入っていたのでしょうか? 子供ではないでしょう? カルディナ邸は墓地ではありませんからね。それでは一体これは何なのでしょう?」
「そこまで言っておいて回りくどい言い方はやめて頂けますか?」
副長官はが苛立ちを表に出すと今まで黙っていたコペルニクスが口を開く。
「副長官、私も神に使える身。もちろん使者の王族にも絶対の忠誠を誓っております、しかし王族にも例外があるやもしれません。堕落したものを捌くのは異端審問官の務めではないでしょうか?」
「……」
「コペルニクス殿もこうおっしゃております。副長官殿如何ですか?」
「分かりました。この件は早急に協議し、追って結果はお知らせ致します。協力ありがとうございました」
副長官は表情を変える事なくワルクーレに礼を言う。一瞬何か言いたそうな素振りを見せるワルクーレではあったが、うすら笑いを残すとコペルニクスに一礼し扉を後にした。
「コペルニクス! すぐに会議だ。部隊長に至急連絡を入れろ!!」




