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第二章 第6話 酒宴

 

 野盗討伐は騎士団の大勝に終わり、黒狼傭兵団の被害も怪我人が数名出た程度であった。騎士団の面目も立ち、黒狼傭兵団への報酬も出来高を含む大金が支払われた。ガーランドも大層ご機嫌で、夜のキャンプでは大勝を祝い酒宴が開かれていた。


「ダレス? コルセイはどこに?」


「風に当たってくると言ったまま帰ってこない」


「わかった。ありがとう」


 酒宴は大盛り上がりでどこもかしこもどんちゃん騒ぎである。オリビアは酔っ払いのうざ絡みをスルーしながら見張り台の上に座るコルセイを見つける。見張り台の上は風通しが良くオリビアは見張り台の下で毛布を一つ手に取ると、コルセイに手渡し自分もすぐ横に座った。


「ここは寒い。これ使って」


「ありがとう」


「皆と飲まないの?」


「スケさんを怖がって誰も近よってこないんだよね。ハハッ」


 コルセイの渇いた笑いの後にしばらくの沈黙が流れる。


「そういえば、鎧の分の代金貰ってくれた?」


「さっき確認した。一回の討伐であの金額を稼ぐのは大したもの。誇って良い」


「ありがとう。でもほとんどはスケさんが仕留めた様なものだからね。敵の士気も下がっていたし運が良かったよ」


「傭兵にとって運はなくてはならないもの。戦果は素直に喜ぶべき」


「そうだね。素直にそう思うことにするよ……」


言葉とは裏腹にコルセイが笑顔を見せる事はない。


「何を落ち込んでいる?」


「……顔に出てた?」


「コルセイはわかりやすい」


「……人、殺したの初めてだったんだよね。ヒエルナの兵士になった時からいつかはって、覚悟してたんだけど。だけど一人殺してしまえば不快な感覚もどんどん薄れていってさ。気付いたら何人も殺していた。今更になって自分が変わってしまったんじゃないかって恐怖が込み上げて来たんだ。何て言ったら良いかよくわからないけど。気持ちが整理できなくてごめん」


「謝る事はない。私も初めて人を殺した時は怖くて震えていた。突然思い出す時もたまにある。そんな時は私も落ち込む」


 普段言葉少なげなオリビアが喋りかけてきた事に驚きながらも、オリビアのその優しさにコルセイは少し救われる。


「そういう時はオリビアさんはどうしてるの?」


「オリビアでいい」


「うん。それじゃあ、オリビアはどうしてるの?」


「何も考えない。考えてミスしたら元も子もない。それでも考えそうになったら……」


「考えそうになったら?」


「誰かに聞いてもらう……かな。コルセイ、これあげる」


 オリビアはコルセイの前に拳を出すとそっと手を開く。手を出し受け取ると小さな石のついたペンダントだった。


「これは?」


「落ち込んだ時にこれを見ると少しだけ気持ち落ち着く。そういう呪いがしてある」


「大事なものじゃないの? 俺もなんか渡したいけど」


 コルセイはゴソゴソと胸元やズボンを探る。


「大丈夫。今の私には必要ない。この御礼は貸しにしとく」


「ありがとう。じゃあ、オリビアが落ち込んだ時は俺が話を聞くよ」


「わかった。それでいい」


 オリビアが小さく微笑むとコルセイも自然に笑顔となる。


「オリビア! ガーランドが呼んでるぞ!」


ダレスの大声が響く。オリビアは腰を上げるとコルセイに軽く手を挙げ、見張り台を後にした。


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