第二章 第3話 天幕の中では
ガーランドが天幕の布を上げると肩に担いだコルセイを乱暴に降ろす。
「オリビア、治療しとけ」
「この人は?」
オリビアと呼ばれた少女は投げ捨てられたコルセイを心配そうに見る。年齢はコルセイと同じ位か少し幼ない様にも見える。薄い青い髪を短くまとめ、整った顔立ちをしているが、主張の少ない目鼻立ちのせいか儚さを感じる少女である。ガーランドと同じ黒い革をなめした装いではあるが、下半身は足が少し見えるスカート状に仕立てられている。
「加護を」
オリビアが手をかざすと、温かみのある光がコルセイの擦り傷や打ちをみるみるうちに治ってゆく。
「相変わらず便利な力だ。いつでも神官連中の所に行っても構わないんだぞ」
ガーランドが感情の無い言葉を放つとすぐさまオリビアが言い返す。
「その話は終わったはず。私は好きでここにいる」
「そうだったな」
ガーランドはオリビアの顔を見ることもなく背を向けると、天幕の外へと出て行く。
「う、うーん」
「起きた?」
コルセイが起き上がるとそこには見知らぬ少女がいた。少女はコルセイが意識が戻ったのを確認すると言葉少なげに天幕を後にしコルセイに目でついて来いと合図を送る。
「君が手当をしてくれたの?」
「……」
少女は首だけで頷くとキャンプの重要箇所を案内して回る。集まっている男どもは荒くれ者の集まりのように見えるがよく統率が取れており、先程コルセイを打ちのめした男のカリスマを垣間見る。
キャンプは適当に配置がされているようにも見えるが、よく見れば有事の際には迅速に行動ができるように配置され、備品はよく手入れがされていた。
少女は一通りの場所を案内すると中心にある大きな天幕にコルセイを案内する。天幕を開けるとガーランドがどっしりと座り、その後ろにはダレスが立っていた。
「よお」
「……どうも」
「どうだ俺の黒狼は気にいったか?」
「まぁ」
「おい、おい、おい。まだごねる気なんじゃ無いだろうな? えぇ!?」
「いえ、男に二言はありませんよ。しばらくはお世話になろうと考えてます」
「しばらくじゃねーだろ。しばらくじゃ。まあいいか。お前はダレスの元で指示を待て。オリビアはここに残れ」
コルセイは渋々納得するとダレスの合図で共に天幕の外へ出て行く。残ったオリビアは何か? と言わんばかり表情でガーランドをまっすぐ見つめている。
「今回、私はダレスと共に行くことのに決めた」
「あぁん。回復役のお前が前線に出てどうすんだ!?」
「私は回復だけでなく、戦闘もそこそここなせる」
オリビアは淡々と、けれどもしっかりとガーランドに言い返す。
「そういう事を言ってるんじゃねぇ。お前が戦えるなんて百も承知だ。俺が言いたいのは」
「あの人ならもしかしたら戻ってくるかもしれいない」
ガーランドが話す前に矢継ぎ早に言葉を被せる。
「……戻ってくるわけねぇだろ」
「とにかく私は行く」
「おいおい俺は許可した覚えはね……。クソ行きやがった」
ガーランドは天幕の入口をしばらく見つめると、つまらなそうに後ろに倒れ込んだ。
「まあいいか。オリビアのやつが自分から何かを言ったのは久しぶりだったからな」




