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最終章 第28話 国を支えるもの

 

「生きてる!」


 呼吸を確認したランドルフは歓喜の声を上げる。カルディナの意識は失っているものの、何とか命はつないだようである。しかし、至る所にあるのは裂傷、打ち身、骨折、特に大男に掴まれた足首はどす黒く腫れあがっており、一刻も早く治療が必要なのは明らかである。


 ランドルフがカルディナを背に背負うとコルセイの元に駆け寄る。


「隊長が無事で良かったです。目を覚ましたら文句の一つでも言ってやりたいですし、なによりも死んだら気分が悪いですしね」


 コルセイの軽口でランドルフが冷静さを取り戻すと、視界に、辺りの惨状が目に入ってくる。


 深く抉られた土に、削られた壁、風化した墓石は辺りに突き刺さっている。先ほどから左目を押さえるコルセイの傷も酷いようで、立ち上がってすぐさまつんのめり前へと倒れる。


「二股狼、頼むよ」


 力なく二股狼に声をかけると。二股狼の背に支えられながらコルセイがなんとか立ち上がる。


「あら? そういえば?」


 ランドルフが素っ頓狂な声を上げる。大男が現れた際に魔物死体が綺麗さっぱりと消えていたが、その一部が辺りに再び散乱していた。


「さっきの大男に担保として預けられたものですね。スタンピートの一部の魔物を拝借し、その魔物も捧げたというのに。この量を持ってかれてしまうとは……。俺の身体も担保に入っていたので使役していた仲魔は何匹か残ったようですけど……」


 最も近くにあるのは元のサイズに戻ったリュケス、体の上半身のみの鎧を残したブラッスリー、二股狼の影からもぞもぞと現れた子供サイズに戻ったルイである。


 魔力を通わせてみるとリュケスとブラッスリーに僅かに反応がある。体のパーツを揃え、コルセイが全快すれば元のように使役できるであろう。


「……ゴブ?」


 辺りを見回すがゴブリンの死体は一匹もいない、最も長く共にいた仲魔の姿が見当たらないのだ。どうやら、大男に返還されたもの中には加われなかったようだ。


「……」


 神殿騎士団で平凡な人生を送りたかったコルセイの人生を大きく変えたのは一匹のゴブリンであった。かつてはコルセイを襲う魔物であり、情が通い合うという友のような関係ではなかったが、何度も命を救ってもらい、共に幾つもの戦いを乗り越えてきたのだ。


「ゴブ」


 コルセイは唇をキュッと噛み締める。囁くような声で名をつぶやくと、目を閉じ、頭を下げた。


「コルセイちゃん、さっきの男は一体何なの?」


 ランドルフはカルディナを背負いながら恐る恐る聞いて来る。


「初代魔王です。俺の中にいるエグスメントを通して召喚してみました。ただ、俺にはリスクが大きかったみたいですね。魔力量も足りませんでしたし、被害が大きくなりました。ただ、あの時の隊長を倒すためにはあの手段しか思いつきませんでした。……勇者はやっぱ強いです」


 呆れたように笑うとランドルフに背負われるカルディナに目を向ける。


「行きましょうか? 隊長の怪我もオリビアに会えば治るはずです」


「……そうね」


 戦闘の爪痕が残るかつての墓場を後にする。運よく残った螺旋階段へと足を運ぶと、コルセイは前を向き二股狼に支えられながら力強く足を前へと進めた。


 ~~~


「ここです」


 牢獄の隠し通路から幾つかの扉を超え、とある部屋にたどり着く一行。厳重な警備などはなく、隠し通路さえ見つけてしまえばこの部屋にたどり着けてしまうのではないか? と考えていると、その考えを見通したかのようにワルク―レが口角を上げ笑いかけてくる。


「オルタナ君、それは難しいだろう。この部屋は意志をもっている。広大な五月闇の牢獄をランダムに移動し続けているのだ。私の他数名しかこの部屋にたどり着くことはできないよ」


 ワルクーレが扉を開け二人を招きいれる。辺りは暗く、目が慣れていないせいか後に続いたオリビアは足元の出っ張りにつまずく。オルタナは魔力により視界が開かれているはずだが、目に入ってきたものを理解できない様子で、逆に声をあげられなかった。


「ここは?」


 オリビアがワルク―レに疑問をぶつけると一斉に照明が点灯する。暖色の色を帯びた光は部屋全体を怪しく照らし、幾つも並ぶ巨大な円柱型の水槽を照らしだす。


「!?」


 オリビアがワルク―レに対し咄嗟に身構え、ワルク―レはそんなオリビアを見ても態度を変えずに不気味な笑みを浮かべる。


「答えて! これは一体何なの!?」


 警戒しながら視線だけを円柱型の水槽に移す。その先には数十に及ぶ人、人、人。足を失ったもの、腹部に致命傷を負ったもの、顔半分を魔法か何かで吹き飛ばされた者もいれば、拷問を受け絶命したものまで多種多様な死体が水槽の中に浮いていた。


「答えなさい! 一体、これは何!」


 悲鳴に近いような詰問をワルク―レにぶつける。


「分かりませんか? これがヒエルナを根幹を支えるもの。神に等しきシステム。私達が【機関】と呼ぶものです!」


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