第一章 最終話 コルセイはどこへ
ヒエルナの最大の敵、いや! 人類の最大の敵ネクロマンサー! 永遠の眠りについた死者をイタズラに呼び覚まし、善良な市民を襲う。
数万人に一人の才能と言われるネクロマンサーに出会うのは限りなく低い確率ではあるが、あの巨大スケルトンを操っているのが何よりの証拠だ。よくよく考えればあの前傾の小男はゴブリンだったのだ。
スタンピートを影で操り、あの巨大スケルトンをヒエルナに解き放つコルセイ。いや、死神コルセイ。早くヒエルナに帰って知らせなければ。いや、知らせるのは後だ。あいつらはまだ何か計画の途中だったはず、俺はそれを見極めてから異端審問にかける準備をしなくてはならない!
翌日。コペルニクスは恐怖で眠る事が出来なかった。胃がムカつき、目眩がする。そんなこととはつゆ知らずコルセイ達三人は用意を終えると目的の場所に向けて巨大なスケルトンへと乗り込む。
やはり、コルセイが死霊使いなのは間違いないだろう。果たして三人はどこへ向かうのか? この先は廃墟となっている離宮があるはずだ? 三人は離宮に到着すると迷う事なく中へ進み、コペルニクスもその後を追う。
コペルニクスは視界の悪い中、ヒエルナにいる家族の事を思い出していた。
両親は敬虔なヒエルナ教の信者ではあったが、コペルニクスの事を誰よりも愛してくれた。何不自由ない生活を送らせてくれたし、異端審問官になるための学費も惜しまずに援助してくれた。異端審問官の就職が決まった時は本人以上に喜んでくれたのを今でも鮮明に思い出せる。両親には幸せでいて欲しい。その為にもあのアンデッドをヒエルナへ向かわせてはならない。
「家族は俺が守る!」
コペルニクスは改めて心に誓う。
しばらくすると三人は二手に分かれた。コペルニクスはコルセイと鴉頭の女を見張る事にし、念のため中庭の入口辺りで二人を見張る。しばらくすると二人はオルタナを追い、部屋から奥から何本かの容器を外へ出す。やがて二人が奥に戻るのを確認するとコペルニクスは二人が外へと持ち出した容器を確認する。
「これは……? 魔力燃料? しかも揮発性が高い兵器にも転用できる危険物ではないか。何に使うつもりだ?」
コペルニクスは中庭でコルセイとアヤカが戻ってくるのを待つ。三十分程経ったであろうか? 周囲に僅かな揺れと、同時にあちらこちらから漂う不浄な気配。コペルニクスは口元を抑えると、必死に吐き気を抑えた。
「しょ、瘴気! こ、これが狙いだったのか。アンデッドのヒエルナ襲撃と瘴気の二段構え、自分よりも一回りも若いあの小僧が、わ、私は心の底から恐ろしい」
足が震え。全身の汗が止まらない。コペルニクスは心を奮い立たせ、魔力燃料を持ち奥に向かう。
「私がヒエルナを救わなくては」
※※※
コルセイが水路に出ると地上から声が聞こえたような気がする。さらに進むと水路にはさっき見たような容器が複数浮いている。
「これは……外に運んだ筈の予備の魔力燃料? この匂い? やばい!」
咄嗟に水の中に隠れる。瞬間、水路には爆風が吹き荒れる、直撃を免れたものの、一部の水路が崩れ濁流となってコルセイを襲う。咄嗟にスケさんに捕まるが、凄まじい水の流れに逆らうことができず、数瞬でリュケスもろとも流されてしまう。
「——ッグボッ!」
(どういうことだ? 魔力燃料はさっきの爆発にしか利用しないはずだ。他に誰かいるのか?)
コルセイは濁流の中考えをめぐらし、必死にリュケスを使い脱出を計ったが、抵抗むなしく、やがて意識を失った。
※※※
凄まじい爆音が響きわたる。数瞬後にはアヤカのいる部屋にも衝撃音と共に扉に水が押し寄せる。
「どういう事? あなた何かしたのですか!?」
アヤカは先程までの怯えた様子から一転して黒外套に詰め寄る。
「まあ落ち着け、この爆発は私と関係ない。幸い、ここには水が雪崩れ込む事はないが……。どうやらもう一人侵入者がおるようだ」
爆発の余波が過ぎアヤカは扉を開けると地上に向かう道へと駆け出す。地上に戻る道は跡形もなく、水路は所々崩れ、水路の程をなしていない。先程の爆発の直撃を喰らえばコルセイの安否は絶望的であろう。
「コルセーーーイ!」
返事はない。
「コルセーーーイ! コルセーーーイ! ……コルセイ」
辺りからはただただ水の流れる音だけが響く。
「ゴブはどうするの? あなたのゴブでしょ?」
アヤカはしばらくコルセイを探すが、姿を見つけることはできない。やがて、辺りが暗くなり始めると踵を返してオルタナが眠る小部屋へと戻っていった。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。こちらの話で一章は終わりとなります。オルタナやアヤカとはしばらくお別れとなり、次回からはコルセイの新しい旅? が始まります。至らない事もあるとは思いますが引き続きお願い致します。




