最終章 第19話 リュケスの一撃
終わりのないゴブリンによる波状攻撃。
焦ったミドガーは隠れるのを止め、姿をコルセイに晒すと、剣士、狩人、術師の三人に魔法により基礎能力を上げる。
特にその効果が顕著であったのが術師だ。術師が浮かべる玉から発せられる氷柱は格段に威力が上がり、無限に湧き出るゴブリンを押し返し始めている。
「ミドガーの姿を捉えられたのはいい。しかし、あの術師の氷柱はマズイ。地味ながら戦士の能力も、狩人の精密性も上がっている。ゴブリンでの戦いはここまでか……」
ルイへ意識を送るとゴブリンの供給を止め、リュケスの後方へと姿を隠す。その間も氷柱はゴブリンを虐殺し続け、もう間もなく氷柱の絨毯はコルセイへと到達するというところまで来ている。
(ブラッスリー!)
岩石を削り、先端を尖らせた砲撃が勢いよく放たれる。砲撃は風を切り、狩人の横を通り抜けるとミドガーの真正面へと迫る。しかし、ミドガーに直撃することはない。術師の玉から発射された氷柱と岩の砲撃は相殺され、岩石は跡形もなく消失する。
「甘いですよコルセイ」
「いや、狙い通りです」
ミドガーの余裕のある声に対してコルセイが間髪入れずに応える。
ゴブリンが倒しきられる前に僅かな隙ができると、リュケスの後方に下がったルイが再びマントを開く。異空間の中から現れたのは複数のスケルトンである。
「今度はスケルトンの波状攻撃ですか? 甘いですよ。スケルトンではルキアの氷の散弾は防ぐことはできません!」
白髪の術師が発する氷柱が再びゴブリンに放たれ始める。その勢いは衰えることはなく、ゴブリンの数はみるみる減り、さらには狩人と炎の矢、戦士の斬撃やにより隊列が瞬く間に駆逐される。ルイから放出されたスケルトンがリュケスに届いた瞬間。
――横一線に閃光が走る
空中で脅威を振るう氷柱が一斉に切り払われる。ミドガーが予想外の事態に驚いていると、続いて二回、三回と光が走り、戦場の氷柱の全てが切り払われ、氷の破片が空中に散りばめられた。
氷柱が直撃するはずであったコルセイたちの目の前には一つの巨大な人影がある。両腕にはそれぞれ赤と黒の刀が握られている。
「スケさん頼むよ」
ミドガーたちの目の前には巨大なスケルトンが佇んでいた。両腕の刀はその巨体に対し、やや小振りに見える。上半身はコルセイたちが出会った当時の身体そのままに。下半身は地面をしっかりと捉える二本の足が存在する。
地面を踏みしめると、地面が隆起し、黒一色に染め上がった骸が、術師、狩人、戦士にそれぞれに向かって這い出し、地面より産み出された骸が三人の下半身を拘束する。
剣士は剣で、狩人は脚で、術師は魔法で、それぞれ迫り来る骸を退けるが、骸は瞬時に再構築され抵抗しきれなかった狩人は骸の波に呑まれそのまま地面に引きずられていく。
「くっ!」
ミドガーの声が思わず漏れる。狩人を救出すべく、術師が即席のファイヤーボールで骸を消滅させるが、すでにその場に狩人の存在はなかった。状況が悪いと判断すると戦士と術師を一度後方に下げ、距離を取ろうとするが、白髪の戦士の後方に巨大な影がそびえたつ。
「ゴォォォォ!」
戦士を遥かに超える巨体が二本の刀を振りかぶる。その巨体のどこから響くのは分からない野太い声は白髪の戦士を威嚇しているかのようである。
「――ッ!」
声にならない声を上げる白髪の戦士。
直撃こそ免れたものの、足元の地面は大きくひび割れ、足はくるぶしまで地面に埋まっている。
楓が伸びたようないびつな形をした剣がリュケスの二刀を捉え、腕へと侵食してゆくが、リュケスが攻撃に怯むことはない。
「圧迫する肋骨」
歪に拡がった肋骨が左右に広がると、そのまま白髪の戦士の全身を締め上げる。楓のような剣がリュケスの肋骨を何とか止めようとするが、その凄まじい威力に意味をなさず、やがて体勢を保ってなくなった白髪の戦士の頭上に二振りの刀が振り下ろされ、戦士は人の形を保つことはできなくなった。
「……アルス」
状況が傾いたミドガーに寄り添うように術師が傍に立つ。すかさずにその左右をルイとブラッスリーが囲み、正面には二刀を構えたリュケスが堂々と立つ。
「二人を開放し、俺の目の前に二度と現れないとここで誓うなら逃がしてもいい」
コルセイの鋭い視線を受けるがミドガーは何の反応も示さない。
「情けですか? 随分余裕ですね。今、貴方が倒した戦士、骸の波に消えた狩人、私の右に立つ美しい術師は数百の戦を共に戦い抜いた友人です。友人を見捨て私に投降しろというのですか?」
「友人? 友人を殺し使役しているのか?」
「ふふふっ。友人を殺して使役? それでは私は鬼畜ではないですか? 彼らはね、自分から望んで使役されたのです」
「!?」
「私はかつての魔王討伐メンバーの一員です。パーティーは全員で五人。戦士のアルス、術師のルキア、狩人のルガ。そして、カルディナの父、勇者オ―スタンスです。その当時の魔王を見事に倒した私達は報告をすべくサンアワードに向かったのです。しかし、私達は何もわかっていなかった。救ったつもりでいた人々がいかに愚かな者達であったということを……」




