最終章 第13話 反撃
カルディナの姿は球体の中に消えたものの、ルイの圧縮しようとする力に中から激しく抵抗しているようだ。周囲に視線を巡らせ、後ろで戦いを見ていたアヤカとオルタナに声をかける。
「ケガはない?」
「あぁ。カ、カルディナ隊長をやったのか?」
ルイが作り上げる球体を見ながら眉間に皺を寄せる。
「ダメージは負うだろうけど、もうすぐ出てくると思う。流石隊長、タフだよね。それはともかく二人にお願いがあるんだ」
「なんですか?」
「ガイブとオリビアを探して欲しい。隊長が本気を出したら隊長を倒せるか分からない」
「……はい。でも、」
アヤカは不安げな表情を浮かべ、曖昧な言葉で濁そうとする。その様子を見てオルタナが気持ちを察すると静かに声を掛ける。
「わかるぜ。でも、ここはコルセイを信用しよう」
アヤカは自分の気持ちを悟られたことにバツの悪さを感じ片手で自分の顔を覆う。
「私としたことが……気を使われるとは。うつろいの森で旅をしていた時と立場が逆転しましたね」
自嘲気味に笑みを浮かべると自身の胸を軽く叩く。
「すみませんでした。オリビアとガイブの事は任せてください。私が責任を持ってあの二人を助け出します」
(私がって……俺もいるのを忘れないんで欲しいんだけどな)
アヤカはあっさりと背を向けると先ほどまでいた螺旋階段へと駆けてゆく。オルタナは勢いよく駆けてゆくアヤカの背を見ながらコルセイの元へと近づく。
「オリビアの救出が終わった後はどうするのかはっきりしろよ。アヤカは本気だぞ」
「――!?」
返事をする間もなくオルタナは駆けて行く。
(どうすれば良いか教えてくれ。お、俺は)
コルセイが贅沢な悩みをに頭を悩ませようとしたとき、ルイが抑えこもうとする黒い球体に眩い光が走る。
(思っていたよりだいぶ早かった。でも)
コルセイは階段を登る二人に目を転じる。二人はすでにかなりの距離を登っており、カルディナがいくら驚異的な脚力で登ったとしてもすぐに追いつくことはできないであろう。
球体に走るひび割れた光はすでに全体に行き渡っており、ルイが抑え込んでいる手がわなわなと震えている。やがて、手が大きく弾かれるとその先の球体が砕け、紫電が迸るカルディナが姿を現す。
「思ったより遅――」
コルセイの言葉を最後まで待つことなくカルディナのランスが大きく振り下ろされる。幾本もの紫電が常人では見切れない速度でコルセイへと迫る。
すぐさまリュケスのスカルウォールにより相殺を試みるが、紫電の勢いを僅かに削ぐばかりで躯は一瞬で塵となりコルセイへの振り下ろす勢いは衰えない。
「くっ!」
コルセイがブラッスリーにより強化された脚力を使い、何とか紫電を避けるが、コルセイのすぐ真横を突き抜けた紫電により腕に痺れが走る。
(聖闘気に雷を扱うか……厄介だな)
コルセイに紫電を避けられたカルディナはのすぐさまランスを持たない手を上げる。
数メートル先の上空には渦を巻く魔力の流れ、魔力の渦は程なくして紫電を纏うと、やたらめたらとコルセイに向かいは紫電が放たれ始める。
ブラッスリーの岩による障壁を縦に身を躱し、ルイが作り出す闇の幻影により姿を消そうとする。しかし、
――雷の光に乗ってカルディナのランスがコルセイを突き刺す。
「くっ!」
リュケスの二刀、コルセイの持つショートソードの四刀でカルディナの一撃を逸らし、力づよく受け流す。しかし、尚もカルディナは左右の手を上手く使いながら攻撃の手を緩めることはない。
――三連突き
コルセイに避ける間を与えず体勢を崩し
――下段払い
体勢を崩した瞬間を狙い足を払う
――雷突き
真上から紫電の力を加えた槍を一気に突き下ろす
頭に槍が突き刺さる寸前でコルセイの身体が隆起した地面により突き飛ばされる。カルディナが舌打ちをしながら顔を上げると視線の先にはロッドを構えたブラッスリーがいた。
身体を地面に打ち付けると呼吸を乱しながらカルディナと距離をとる。
しかし、状況は全く改善されてはいない。魔力の渦は以前上空にあり、紫電を放ち続けている。ルイが空間の歪みを使い、上手く紫電を誘いこんではいるものの、全ての紫電をいなせているわけではない。
(――押されているな。ルイがあの渦にかかりっきりでこちらは防戦一方だ)
コルセイは勢いよく走り始める。前面にリュケスをだし骸の道で攻撃、後方からはブラッスリーが頭部大の岩石をカルディナに向けて発射する。
連携の取れた複数の攻撃にカルディナの体勢に乱れが生じる。僅かな隙を狙いコルセイの黒いショートソードが足元を切りつけようとするが、カルディナは地面にランスを突き立て、ランスの上に逆立ちをするような姿勢を見せるとそのままコルセイを蹴りつける。
コルセイとカルディナの攻防は一進一退の繰り広げていた。




