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最終章 第11話 牢にて

 

 ヒエルナ皇国近く


 城門では夜通しでスタンピートに備えていた。早朝には魔物の第一波が到着すると考えられていたからだ。深夜だというのに至る所で松明が焚かれ、城内、城外に神殿騎士団を中心に人が溢れていた。


 そんな中、コルセイたちはヒエルナ近くの王族の墓へと来ていた。


 墓守を気絶させ、オルタナ、アヤカはコルセイと使役する魔物と共にとある貴族の墓標の前に立っていた。


「あーあ。やっちまったな。スタンピートを起こして国に反逆、そのうえ、王族の墓荒らしとはな……」


 頭を下げるオルタナに対し、アヤカは笑顔で話かける。


「まだありますよ。異端審問官への執行妨害。魔物の使役、ヒエルナへの不法侵入、さらに、要人の誘拐、国家機密の持ち出し――」


「あーー! やめてくれ! 何回死刑になれば俺は許されるんだ。馬鹿らしい」


 オルタナがアヤカの言葉を遮ると、墓標の裏に回り、窪みに手を入れ、何かを探すような素振りを見せる。


「あったぞ!」


 手を窪みの奥へ入れ、そのまま肘を突っ込むと何かを引っ張り出す。掴んだ何かを手を離すと、体を起こし、しばらくして何かが倒れるような音がする。


「どうやら間違いないみたいだね」


 コルセイがリュケスに命じて墓標を倒すとその先には人一人程が通れる道が出現する。


「流石、お婆様!」


 ルピシアより予め聞いていた情報が役に立った。ブラッスリーが魔石を利用した魔具で灯りを付け、先に進むと続いて三人が続き、最後にリュケスとルイが殿を務める。


「人や魔物の気配はないな」


 オルタナは最新の注意を払い、既に全身に魔力を纏い姿を変身させている。暗闇の中を見通し、敵や魔物がいない事を確認している。


「とりあえず大丈夫のようだな。俺の索敵能力を超えるような敵はいないと思うが、ここはヒエルナ本国、どんな敵がいるか分からない。警戒だけは怠らないでくれよ」


 コルセイとアヤカが頷くとルイが先行して進み自分の姿を闇と同化させる。


「お婆様からの伝言ですと道は二股に別れ、その一つは王宮に繋がり、残りの道は五月闇の牢獄のどこかに繋がるようです。しかし、到着して以降、情報はありません。この先は自分達で判断し、進まなくてはなりません」


「それなら何とかなると思うよ。ガイブがいなくなったのは痛いけど、鼻が利く仲間が俺たちにはいるだろ?」


「仲間? コルセイの使役する魔物ですか?」


 アヤカが回りを確認しても、近くにいるのはルイ、リュケス、ブラッスリーの三体だけである。スタンピートを引き起こした際に更なる魔物を使役したというわけでもなさそうである。


「俺の魔力的にも場所的にもここで種明かしはできない。けれどもう少しでお披露目できると思うから楽しみにしててよ」


「楽しみにって……。コルセイと違い、私はそのような余裕はありません。できるならカルディナ隊長との戦闘は避け、ひっそりとオリビアを救えればと考えているんですよ」


「まぁね。隊長とは俺だって戦いたくないよ。見た目に反して中身は魔物より強いからね」


 オルタナが二人の話を聞き顔を下げる。


「俺も魔物の相手くらいならできるけど、隊長と戦闘になれば全く役に立たないぜ。ルインズモスを一撃で殺す人だからな。戦闘になれば逃げの一手だと思うぜ」


「もし、戦うとなれば高確率でランドルフさんがいるだろうし」


 ランドルフの名前が出てきたことによりオルタナとアヤカが視線を落とす。


「ランドルフさんが、隊長と一緒に俺たちの前に出てくるときは覚悟を決めた時だ。その時は俺たちも覚悟をきめないとな」


 隠し通路の空気に、湿り気と共に風が頬をなでる。ルピナスから聞いている分かれ道が近いのだろう。三人は改めて気を引き締めると慎重に奥へと進んだ。


 ※※※


 眩い光で目を覚ます。オリビアが咄嗟に身体を起こすと、回りは石の壁で囲まれており、扉は固く閉じられている。最低限の調度品が置かれ、近くのテーブルにはまだ温かい食事が置かれていた。


(ここは?)


 拘束を解かれてはいるものの、扉からの脱出はできない。部屋を一通り確認するとオリビアはテーブルの上の食事に手を付け始めた。


 ――毒が入っているかもよ?


 視線を扉へと移す。扉が開けられ美しい顔の女性が部屋へと入ってくる。


「自己紹介はいらないわよね。少し話をしましょう」


 外の見張りより椅子を受けっとったカルディナはオリビアの前に腰を掛ける。今のオリビアは拘束を解かれている、カルディナに襲い掛かることも可能だろう。しかし、そのような素振りを一切見せないのはオリビアがカルディナの実力を見極めているからだ。


「ガイブは?」


 パンを口に運びながら質問を投げ掛ける。


「あのコボルト? 生きてるわよ。拘束はさせてもらっているけど命を取る気はないわ。貴方とは腹を割って一度話をしたいと考えていたの」


「何? 私とガイブを無事に逃がすなら一発殴るだけで許してあげてもいい」


「フフフッ。貴方自分の今の立場を分かっているの? 元傭兵という話も嘘ではなさそうね」


「……何か話したいことがあるんじゃないの?」


 動じることなく、むしろ堂々と食事をとりながら話をするオリビア。カルディナは頭の中でいくつか考えていたプランを捨て、単刀直入にオリビアへと質問を投げかける。


「私達に協力しない? 条件はあのコボルトと貴方の協力よ」


「協力とは?」


「貴方を捕らえた原因は分かっているでしょ? 聖女としての力が必要なの。貴方にしかできない事がある。もちろん協力してくれるというならばそれなりの待遇で迎えるつもりよ」


 オリビアは持っていたパンを置くとカルディナに一つ確認をする。


「コルセイは?」


「……あのゴブリン使いには私の目的のために死んでもらうわ。それだけは譲れないわね」


「そう。では交渉決裂ね」


 オリビアは持っていたパンを盆の上に投げると、ベッドに横たわりカルディナに背を向ける。そんなオリビアを見てカルディナは表情を変えずに声をかける。


「片が付いたらまた来るわ。それまでゆっくり考えていて」


 兵に椅子を渡すと扉に鍵を閉めオリビアに背を向けた。


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