第一章 第3話 勝鬨
「よく聞いて、作戦は簡単よ。貴方達は隊長達が取りこぼした魔物を小隊で撃破。うちの隊もランドルフを前にだして魔物を撃退しなさい。間違っても前には出ないで……死ぬわよ」
さらっと恐ろしい事をカルディナが言い放つ。
「ランドルフ!」
先程投げられたズタ袋を二人掛かりで被せた後、しばらく暴れていたランドルフであったが、今は薬が効いたのか大人しく座っており、隊長の呼びかけに対しても反応はいまいちである。
「貴方達、死にたくなかったらランドルフにもっと袋の匂いを嗅がせなさい」
「す、すいません。ランドルフさん大人しくしていてくださいね」
言われた通り、再びオルタナと二人でランドルフに力ずくで袋を顔に押し付ける。
「ウゴッウゴッウゴーーーーーー。グルグルグギャッ」
(いや、これ人間やめっちゃってるんじゃないのだろうか……)
両足で力強く立ち上がったランドルフを見て、カルディナが口角を上げる。
「いいじゃないランドルフ。調子で出てきたわね! それじゃあ第二回戦行くわよ!」
森の中からはわらわらと魔物達が姿を現す。先程見たルインモスを始め、奥には甲冑を身につけた二足歩行の豚などが窺える。魔物達は隊長格が前に出るのを確認するとノロノロとした足取りから一斉に隊長達に向かって走り始める。口角泡を吹き、目を剥く様子はコルセイだけであれば間違いなく震え上がっているだろう。
「槍構え、放て!」
厳つい顔をした先程の大隊長が叫ぶと同時に、小隊長の槍が一斉に放たれる。勢いよく槍が着槍すると前方に見える魔物達が次々と倒れていく。
「「おっーーー!」」
兵の歓声が上がり、続いて大隊長より次の指示が飛ぶ。
「各小隊は小隊長を前衛にしつつ、後衛よりフォローせよ。残りの魔物を押し返す! 次の神槍を待て!」
「ウボォアー! ウモ! ウオ!」
ランドルフの豪腕が次々と魔物を屠ってゆく。コルセイ達も急いで後衛に回ると、打ち洩らした魔物や深手を負った魔物を槍で押し返す。魔物の勢いは凄まじかったが、ランドルフの斬撃の厚みのおかげで素人のコルセイでも何とか後衛が務まっている。
「これ、いけるんじゃないですかオルタナさん? 隊長達もまじで凄いですよ! ――あ、そういえば神の槍って何ですか?」
「さっき城門の外の魔物を吹っ飛ばした超出力の光だよ。各小隊長がでかい槍に騎乗しながら城から降ってくる攻撃だ。城壁回りまで射程があって、射程内ならどこにでも打ち込める。あれを喰らって生きてる奴はいないよ」
隊長やランドルフの反撃により魔物とは小康状態は続く。しばらくの攻防の末、ついに大隊長より新たな命令が下る。
「総員体勢を低くしろ! 着槍用意!!」
命令が響き、コルセイが地面に伏せる。と同時に先程見た白い光が辺りを駆け抜ける。魔物達の声が響くことはなく、凄まじい衝撃音が響いた後は、不自然に辺りは静まり返っていた。
恐る恐るコルセイが顔を上げる。視界の先には大きく抉られた大地と傷だらけになった魔物の死体が散らばっている。先程までの戦いが嘘のように荒れ狂う魔物達は城門の前に存在しなくなっていたのだ。
「か、勝ったのか?」
コルセイの間の抜けた声がすると、どこからとなく一人の兵士が叫ぶ。
「か、勝鬨を上げろーー!」
「「うぉぉおおおおおおおおーーーーー」」
辺りは勝鬨の怒声で埋め尽くされる。コルセイの兵士初日。激戦の末、辛くも命を繋ぐ事ができた。