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最終章 第6話 カルディナ・ディ・ヒエルナ

 

 父は王家ともつながりがある侯爵である。しかし、父は公の場にはかれこれ十年以上姿を見せていない。


 母はオルタナのような若い男を囲い、家の金を湯水のように使う。仕事らしい仕事をしているのを見たことがない。まともな公務をしていない侯爵家が何故存続しているのか? 年齢を重ねたカルディナは日に日に疑問が募っていく。


 そんな、カルディナは父母の愛情が不足したまま育ち、やがて戦闘の才能を見出されて神殿騎士団に入隊した。その時、十四歳。異例の速さでの入隊であった。


 (父は何故私を捨てたのであろうか?)


 心の中にはいつもどこかに父に対する疑問があった。父は失踪する直前まで惜しみなく愛情を注いでいた。今では堕落した母も、父がいなくなるまでは絵に描いたような良き母であった。


 そんなある日。隊長就任に伴い、ランドルフと神殿騎士団本部に足を運んだ際に、とある貴族と出会う。


 男の名前はワルク―レ・ゼンス・ラマダン。数百年前にヒエルナへと渡り、国に大きく貢献したことで取り入られ、代々重く用いられてきた一族である。男は異端審問官と激しく衝突し、王族の権力を奪おうと異端審問官と激しく対立していることで有名であった。


 裏ではかなりあくどいことをやっているという噂が絶えない人物であったが、決して悪事が表に出ることはない気の抜けない人物であった。


 ワルク―レはカルディナに囁く。


「御父上は生きています」


 目を見開き、驚きを隠せなかった。しかし、このような突拍子もない発言に裏がないわけがない。すぐに気を取り直して一礼をするとその場を去ろうとした。そんなカルディナを見てワルク―レは人の好さそうな笑みを浮かべ、一冊の本を手渡す。


「連絡を取りたければ、いつでも屋敷に訪ねてきてください」


 本はヒエルナの教本程の厚さで、表紙は装飾されており、高価なもののよう見える。


 カルディナの脳裏に本を処分することがよぎる。しかし、父の事を囁かれ、確認だけでもと自室に戻るとその本を開く。


「――!」


 表紙を開けたヒエルナはページに書かれている文字を見て動きを止める。目の前にあったのは父本人が書いたと考えられる直筆の日記であった。


「なんでワルク―レが父の――」


 一瞬、そのような疑問が頭によぎる。しかし、カルディナはその疑問を頭の片隅に追いやると、そのまま日記に目を戻す。日常を送る自分にとって、突拍子もない内容ではあった。しかし、父の失踪から家が取り潰しにならず、家の財力が果たしてどこからくるものなのか、しっくりとくるものであった。何よりもカルディナはこの日記により一つの希望を見出していた。


 ――父にまた会える


 ~~~


 神殿騎士団で日々の生活を送りながら情報を集める毎日。カルディナを女で若いというだけで馬鹿にしたり、劣情を向ける者などもいたが、一か月もするとケガ人がの数と比例して馬鹿にするものもいなくなっていった。


 神殿騎士団での生活は決して華やかな生活と呼べるものではなかったが、力と【ヒエルナ】という名前だけで不自由はなく、また成果を上げ、誰かから頼られるという日々は心に色を取り戻していった。


 また、直属の部下のランドルフも人情深く、気難しい自分に適度な距離感をもってくれるのも心地よかった。


 父の情報を集め数年が経ち、岐路に立たされる。父の行方に進展が見られなくなってきたのだ。神殿騎士団の生活も安定し、この先を考え、神殿騎士団で本格的にやっていくのも良いのではないかと考える瞬間もあった。


 しかし、とある新人の加入で人生が大きく変わる。


 新人は気弱そうな男で、幸が薄そうなところを除けばよくいるそこらの少年である。突発的なスタンピートが起き、ヒエルナ皇国が久方ぶりに魔物に襲われるという珍しい事態に遭遇した時、カルディナはコルセイの目の前で魔物の豪腕が制止するのを目撃したのだ。


 変わった能力者は貴重である。ましてや死んだ魔物を操る能力はどのように能力が発展していくか未知数である。


 カルディナはコルセイに鈴をつけ、うつろいの森へと放り込む。


 しかし、能力を開花する目的は当てが外れ、コルセイは行方不明となってしまう。


 カルディナの頭からコルセイの存在が消えかかったその時――なんと、巡り巡って疑惑の目が自分にかけられ、異端審問官に捕らえられてしまう。


 幸い、王族と関りがある侯爵家の娘ということもあり。厳しい拷問などにあうことはなかった。しかし、閉鎖された空間で孤独という状態は決して精神に良いといえるものではなかった。


(こんな時に考えるのはやはり父の事か……お父さんどこにいるの?)


 五月闇の牢獄で今までの経緯を考えながら、この先に絶望し始めた矢先、ワルク―レの使いというミドガーが現れる。


 異端諮問官の手伝いをする条件で牢から出ることができた。与えられた命令は異端諮問官が深く関わる人物の確保。どうやら、その目的の人物は少女でどうやらヒエルナに欠かすことができない人物だという。


 そんな話を聞いてもなんとも感じないカルディナ。しかし、久方ぶりに姿を現したワルク―レより聞いた言葉は聞き逃すことができない話であった。


「オリビアという娘はヒエルナにある装置に欠かせない人物だそうです。しかも、その装置の最重要人物に父上の名前が記載されていました。異端審問官と交渉するのは気に入りません。しかし、カルディナ様のここ数年の働きにこのワルク―レも応えたい!」


 絶妙なタイミングで伝えてくる情報は明らかに怪しい。しかし、ルピシアの鑑定、調査でも嘘らしい嘘は出てこない。なによりもこの情報に縋りつかなければ自分のしてきたことが無駄になる。カルディナの心はもう前のみしか見れない状況になっていた。


 ミドガーにより新たな情報がカルディナに伝わる。どうやらオリビアはコルセイの仲間だそうだ。自分が捕まった原因の男の名前がここでもまた上がる。


 異端審問官の連中もこの感情の読めないミドガーという男もコルセイに並々ならぬ感情を持っている。あの弱かった男が私の生活を変化させてゆく


(何とも思っていなかった男がいったい……)


 オリビアを捕まえ、更には仲間のコボルトも捕まえた。薄情な男でなければどうにかして生きている二人を救出に来るのは間違いないだろう。


「私の感情などどうでも良い。コルセイを殺し、オリビアを異端審問官に渡す。それだけで私の求めていたものが手に入るのだ」


 カルディナは余計な考えをすべて捨てると。目の前にあるコルセイの調査表に目を転じた。


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