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第七章 第17話 意志

 

  コプッ! コポポッ!


 棺桶の中から空気が漏れる音が響く。棺の上に乗り、くつろいでいたセリィが軽快に棺の上より地面に降り立つ。


「きたぞ!」


 セリィが声を上げるのと同時に棺桶の蓋を勢いよく投げ飛ばす。棺の中では漏れだすように気泡がポツポツと上がってきており、数分もすると沸騰する湯の如く、気泡が湧き出してくる。


 ボッ! ボッ! ボッ! ボフッ!


 気泡が最高潮に達する。


「ぷはっ!」

「――ッ!」


 黒い液体の中から現れたのは二つの人影。息苦しそうに呼吸をするアヤカと前髪を顔に垂らしながら亡者のような姿を見せるコルセイ。


 両人とも酸素を求めて息を荒げている。セリィが棺桶の二人に目線を移すと呼吸が落ち着きはじめたアヤカと目が合う。


「どうも。どうやら戻ってきたようですね」


「無事に戻れたようで何よりじゃ。コルセイも無事のようじゃのぉ」


 アヤカは髪をかき上げながら後ろに座るコルセイへと視線を転じる。どうやら、コルセイも呼吸を落ちつけたようで、周りをキョロキョロとしながら状況を確認している。視界に入ってるのは男二人。先頭に立つのは両目に涙を浮かべたランドルフである。


「どうしたんですかコルセイ? 調子でも悪いんですか?」


 何のリアクションも示さないコルセイ。救出は無事に済んだと考えていたが、アヤカはもしかしたら何かあったのだろうかと心配している。


「いや、大丈夫。体に問題はないよ。なんかさ……恥ずかしくて」


「何言ってんのよコルセイちゃん!」


 その刹那――駆けだしたランドルフがコルセイの肩へ張り手を繰り出す。ランドルフの豪腕から繰り出される張り手は、勢いを殺すことなくコルセイの肩に的中。あまりの威力にコルセイは身体を回転させ棺桶より盛大に転げ落ちる。


「!?」


 コルセイはゴロゴロと地面を転げまわると、視界が明滅し視点が定まらない。右手で頭の肩をさすりながら地面よりゆっくりと起き上がる。


「みんな、久しぶり。そして、ご迷惑をおかけしました」


 頭を下げると一斉に起きる笑い声。声の中にはコルセイが戻ってきて安心したという感情も含まれているのだろう。皆が笑っている様子を見て、コルセイもつられて笑いだす。


 コルセイが自分の服と髪の毛から黒い体液を絞り出しているとランドルフに声をかけられる。


「ほら、二人とも裏で着替えてらっしゃい」


 ランドルフに促されそれぞれ別室に案内されるアヤカとコルセイ。こうなることを予め予想して、それぞれの着替えが用意されていたようだ。ランドルフの後に続いて二人がが部屋を後にする。


 部屋に残されたのはオルタナとセリィ。オルタナはコルセイが帰ってきたことにより何かを決意したようだ。整った顔を引き締めるとセリィに神妙な表情を向ける。


「なぁ。申し訳ないんだけど、少しの間ヒエルナに戻る」


「なんじゃ。儂に断りなど入れる必要はない。さっさとヒエルナに帰れ。もちろん、もう戻ってこなくていいぞ」


 辛辣な言葉を真顔で言い放つセリィ。目は鋭く感情はこもっていない。通常の男であれば心をへし折られかねない鋭いセリフである。しかし百戦錬磨の猛者オルタナには通用しない。すぐさまいやらしい笑みを浮かべるとセリィの横に並び、耳もとに整った口元を近づける。


「目元が反応してたぜ。寂しいんだろ!」


「……」


「【ばばあツンデレ】は人生において中々出会えない属性だ! けれど俺にかかればお手のものさ! 安心してくれ。必ずここに戻ってくる!」


「……儂は何も言っておらぬ。……しかし、そうしたければ勝手にすればよい」


 セリィはオルタナに背を向けるとそのままどこかへと去ってゆく。そんな小さな背中を見てオルタナは心の中でほほ笑む。


(本当に可愛いな。約束する。俺は絶対帰ってくるぜ!)


 ~~~


 部屋にはびしょ濡れの服を着替えた二人。コルセイがルイとブラッスリーに近づくと二人は膝をつき頭をさげる。労いの言葉をかけると二人は立ち上がり、離宮の外を警戒し始める。


「コルセイ、なんか偉くなりましたね」


 コルセイはばつの悪い表情を浮かべ、アヤカより視線を移す。


「自分でも実感はないんだ。サンアワードに行った時から考えれば自分がルイを使役するなんてありえないしね。でも、やっぱり変わったんと思う」


 ランドルフとアヤカが運び込んだ荷物の中から大きな棺を開けると中から立派な骨格をしたスケルトンが勢いよく起き上がる。スケルトンは顎をカタカタと鳴らし、まるでコルセイとの再会を喜んでいるように見える。


「また、そういう悪戯をするんですね! 誰がコルセイを助けに行ったと思ってるんですか。恩人に対する態度とはとても思えません!」


 アヤカが腹を立てコルセイに抗議するとコルセイは両手を振りながら必死に否定する。


「ち、違うよ。よく見て。かつては二匹同時使役が限界だった俺が、ルイ、ブラッスリー、リュケスを使役している。しかもまだ魔力には余裕があるんだ。まだ、何匹か同時に使役ができると思うよ。それに魔力の上昇に伴って質もかなり向上しているみたいなんだ。使役している三人は言うこともきかせることはできるけど、俺の意志とは別に自立して動いてくれているんだよ」


「えっ!」


「そう。彼らは意志を持って動いているんだ」


 コルセイの発言を受け思わずリュケスを凝視するアヤカ。リュケスはそんなアヤカの様子を見ると僅かな間を置いて再びカタカタと顎を鳴らした。


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