第一章 第29話 変化
コルセイの操作によって、ゴブやスケさんが意図して声や音を上げる事は可能である。しかし、今起きている状況は明らかにイレギュラーな状態である。カタカタと骨同士を鳴らしていた音は少しずつ大きくなり、ブブブッと低い音を立て振動している。やがて全身は原型がない程にバラバラになる。スケさんの状態に驚いていたコルセイは急いでオルタナが入った棺に振り向く。棺は石蓋が閉められ、傍らには黒外套が立っている。
「お前、一体何を!」
コルセイが予備のショートソードを構えると一瞬で場が緊張する。しかし、黒外套は何の反応も示すことなく、無防備な状態をコルセイに晒している。
「お前にはあれが見えなかったのか? いや、見えていたはずだ」
確かにオルタナに気をとられていたが部屋の中の下半身がドアに向けて引き寄せられているのを見ていた。いや吸い寄せられていた。そもそもこの場所はどこであったのか? ビジョンで見ていたはずだ。
「まさか?」
「気付くのが遅いな? わしはずっと守っていたのだぞ。ご主人様の残りの亡骸を」
扉の先のスケさんは原型を留めていない。粉々になった破片は淡い黒い光を帯びている。集まった破片は一度凝縮して球状になるとしばらくして人型になり、光は失われている。
「やはり骨の状態からは戻らぬか。もしやと思ったのだがな」
巨大スケルトンの上半身は小部屋に残された下半身を吸収すると元の人型へと変化していた。
「スケさんなのか?」
上半身だけでコルセイ二人分はあったであろう身長はだいぶ縮んでいた。今の大きさは生前に肉付きが良ければランドルフをやや上回るか体格ぐらいであろうか?
「そのスケルトンの元の骨格だ。それとスケさんと言うのはやめろ。名前はリュケスだ」
「リュケス? リュケスさんか」
コルセイが嬉しそうにはにかむと、黒外套は気が抜けたようにオルタナの棺に腰を下ろした。
「そうか。私の主人もそんな、なりになってしまってはいるが、お前の事は気に入っているかもしれん。これも持っていけ」
黒外套が使用していた赤い刃紋の刀をコルセイに手渡す。
「これはお前のじゃないのか? それに主人って?」
「リュケスは刀の元の持ち主だ。そして私の育ての親で剣の師匠でもあった」
スケさんの生前の様子に驚いていると、入り口よりコソコソと鴉頭のアヤカが小さい声でコルセイに声をかける。
「コルセイ! オルタナ忘れてない? オルタナは大丈夫なの?」
「あっ」
「先程から心配するなと言っているであろう。オルタナと言ったか? しばらくすれば箱より出てくる」
黒外套が腰掛ける棺を見ながらコルセイが黒外套に声をかけようとした瞬間。
ゴッ!
低い鈍い音が響き渡る。建物全体が揺れ、室内から埃が舞い落ちる。
「これは!?」
「この揺れ。火薬でしょうか? 建物を爆破している? 誰が? コルセイ早く建物を脱出した方が良さそうです」
「心配するな。この部屋に直接爆薬を仕掛けられでもしない限りは、ここが崩れる事はない。脱出するにしても様子を見てからの方が良い。私が見に行くのもやぶさかではないが、先程この男に根こそぎ持っていかれたからな。今は動く事が難しい」
黒外套は腰を掛けている棺を叩きながらコルセイに話かける。
「俺が行くよ。扉を閉めて待っていてくれ。アヤカ、オルタナとゴブの事よろしくね」
コルセイは黒外套から受け取った刀をスケさんに渡すと、アヤカの返事も待たずに梯子の場所へ走り去った。
「あ、ちょっと! 話は終わっていない! もう。アヤカっていつから気安く呼ぶようになったのよ」
コルセイの慌ただしい様子にムスッとしたアヤカではあったが口元には僅かながらに微笑みが混じっていた。




