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第七章 第15話 天幕の中には

 

 扉を開けてその先へと足を踏み入れる。先には森を抜けたであろう空き地にいくつかの天幕。そのどれもが扉を開け、中に誰もいないのが窺える。


 しかし、そのうちの一つの天幕の扉は締められており、人の気配が感じられる。アヤカは緊張した足取りでその天幕の入口へと足を運ぶ。


「コルセイ! いるんですか? 私ですアヤカです」


「……アヤカ? どうしてここに?」


「コルセイ開けますよ!」


 アヤカは閉じられている入り口を強引に開けるとその中を覗き込む。中には焚き火を一人で囲むコルセイ。アヤカと目があうと少し気まずそうに微笑む。


「やあ。まさかアヤカがここにいるなんて驚いたよ。み、皆は元気かな?」


 こちらが命をかけてかけて救い出そうと訳の分からない世界を旅してきたのに対して、コルセイは昨日会った友人のようなのりで話しかけてくる。


 アヤカは頭がクラクラした。自分の感情の昂ぶりを否定するようなあまりに軽い素振りである。


「えっと……」


 あっけにとられた表情を浮かべていたアヤカであったが次第にその胸に怒りが込み上げてくる。こちらは心底心配し、蒸し暑いジャングルをコルセイを救う為に歩いてきた。ましてや自分は意識だけで活動しており、自分の身体は仮死状態なのだ。


「うぅぅぅぅ」


 アヤカは天幕の入口でしばらく固まると唸り声をあげ、そのままズカズカとコルセイの天幕に入り込む。


「コルセイ!」


 振りかぶられた右腕が勢いよくコルセイの頬を突き抜ける。


「うごっ!」


 コルセイが間抜けな声を上げると受け身も取らずにそのまま後ろへと倒れ込む。


「貴方って人は! いつもどしてそんなムカつくんですか!? 私達の気持ちを考えたことはなんいんですか!」


 倒れ込んだコルセイの上にアヤカが座り込むとそのままのコルセイの頭をポカポカと殴り続ける。ポカポカと聞こえはするが一発一発はゴブリンを悶絶させるほどの威力である。


 コルセイはこれはたまらんと両腕で頭を隠す。しばらく怒りに任せた良いパンチが続く。


(こ、これだけ強ければエグスメント戦えば良かったのでは?)


 頭の中をくだらない考えがよぎると唐突にその拳打の勢いが弱くなってくる。腕を上げ自分の身体の上に乗っかる様子を見るとコルセイの顔に一粒の雫が落ちる。


「――良かった」


 アヤカの両目からは溢れでる涙。自分の為に流す涙。旅を続けてきた仲間への涙。不覚にも想い人になってしまった者への涙。アヤカは自分の泣き顔を見せないようそのまま覆いかぶさるとコルセイの胸に顔を埋め今まで想いを全て吐き出すかのように大声を上げた。


「……ごめんアヤカ」


 コルセイは涙を流すアヤカの背中に優しく手を置いた。


 ~~~


 焚き木に火をくべながらコルセイとアヤカは寄り添うように座る。


 アヤカはしばらくの間、感情を抑えることが出来なったようだが、我に返ると顔を真っ赤にしてコルセイの上より飛び降りた。そんなアヤカにコルセイは再び小さく謝るとアヤカはばつが悪そうに口を閉じ、焚火を見る。


「別にみんなの事を心配してなかったわけじゃないんだ。気付いた時にはエグスメントに背負われてた。何かを言われたような気がして次に気付いた時にはこの天幕の中に座っていたんだ」


「この天幕はひょとして黒狼傭兵団にいるときに使っていた物なのではないですか?」


「えっ? なんでわかったの?」


 アヤカは悪だくみをする子供のような表情を浮かべると焚火の中にまた一つ枯れ枝を投げ込む。


「話なんか聞いていませんよ。だけど、ここはコルセイの意識の世界。コルセイが関わっていた場所です。複数のテントとこの肌寒さはピレシー地方でコルセイが黒狼傭兵団にいた時だと予想できます」


「言われてみればそうだね」


 小さく笑うと焚き木を投げ込む。


「ここで何をしてるんですか? 早く皆の所へ戻りませんか? 皆待ってますよ。それともここから戻れない理由でもあるんですか?」


「アヤカが連れ出しに来てくれたからもう少しで戻れると思う。だけど俺は会わなくてはいけない人がいるんだ。もう少しで来ると思うんだけど?」


「私の知っている人ですか?」


「うん。知っている人だよ。彼がここに来るまで一緒に待っててくれないかな?」


「もちろんです。コルセイを連れ出すためにここに来たんですから。ここで帰ったら何のために来たのかわからないじゃないですか!」


「それもそうだね。じゃあ彼が彼が来るまで俺の話を聞いてくれる?」


「もちろん」


 アヤカは大きく頷くと外から吹き込む風に身体を震わせ、自分の身体をコルセイの身体に近づけた。


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