第七章 第13話 貴方は誰?
目を覚まし辺りを見回す。天気は快晴、頬を撫でる風が心地よい。視界ははっきりとしていて、障害物などは何もない。そこで一つの違和感に気付く。自身の身体に重力を感じない、いや、それどころか体は空高くに浮いている。さらに、自分の身体をよく見てみれば衣服などは何も身に着けておらず産まれたままの姿であることに気付く。
(!?)
羞恥に顔を紅潮させるがそこで奇妙な事実に気付く。
(雲が私をすり抜けていく)
手を顔の前に広げるが、目を凝らして見てみればその先の景色は透けているのだ。
(実体はない……?)
取りあえず自分の置かれている状況を把握したアヤカは手足を動かしてみたり、体の向きを変えて見たりと試行錯誤を繰り返す。物に触ったり干渉するのは難しいようだが自分の意志で移動することはできるようだ。
自分の裸体を誰かに見られないか一抹の不安を感じながら。アヤカは地上が俯瞰できる位置まで体を降ろす。
目に入ってきた世界は圧巻の一言であった。数百の立ち並ぶ堅牢な建物。中には雲をも突き抜ける建造物あり、俯瞰して見降ろすアヤカが逆に見上げる程の塔。計算され尽くされた街並みにヒエルナ皇国など比べ物にならない無数の人々。更に目を凝らして見てみれば自分と同じ髪と瞳の者もちらほらと見える。
「これは!」
ここがコルセイがかつていた世界なのか? アヤカは高度を下げて街を歩く人々に目を転じる。
(良かった。誰も私には気付いてないみたい)
ひょっとしてこの中にコルセイがいるのではないかと一人一人覗いてみるがそう簡単には見つけることは出来ない。アヤカが再び空に浮かび上がる。この街の人々はせわしなく動いている。活気もある。言葉は理解できないがこの世界の人々からは高い教養も感じる。
アヤカが俯瞰する空から再び地上を見ようとすると西側の空が急速に輝きだす。光は更に輝きを増しその球体はもう一つの太陽作り上げる。
――その刹那、光よりわずかに遅れ爆風が吹き荒れる。実体のないアヤカも思わず手で自分の顔を覆い隠してしまうほどの爆風。
(これは? 魔法? 違うこれはそんな生易しものではない)
辺りを見回す。そこかしこに無数にいた人々は太陽から発せられる光と熱により一瞬で蒸発。骨さえ残すことなく存在をこの世から抹消される。雲をも突き抜ける建造物も爆風を受け一瞬でその形をへの字へと変えるとその勢いのままに吹き飛ばされる。数百もあった堅牢な建築物も地上からは跡形もなく消えている。
回りには何もない、太陽から溢れでた光は全ての存在を消したばした。
目を開く。気付かぬうちに先ほどの見ていた世界は消えている。目の前には先ほど見た世界が映し出される飛沫だけだ。
「さっきの世界は? 幻? それとも……」
再び身体が闇に沈み始めると目の前には光輝く飛沫が現れる。中に映し出されるのは視界全てが水に覆われた世界である。そこに映し出された巨大な船。アヤカの身体は否応なくその飛沫の世界へと吸い込まれる。
「ま、また? コルセイそこにいるの?」
アヤカは今度こそコルセイを見つけると心に決めると、溢れ出る光に身を任せ、飛沫が映し出す世界へと消えていった。
※※※
――全てを海に囲われ海上の船で生活する人々
――狭い収容所に閉じ込められ飢えるだけの家族。
――為政者の演説により熱を上げる民衆
――つまらない矜持を捨てられず家族を失う領主
無数の飛沫の中にある世界。人種、種族、文明、時代。どれ一つとして同じものはなかったが、切り取られたどの場面もリアリティー溢れ、とても作り物であるとは言えないえるものではない。
(どこにいるのコルセイ?)
数百の切り取られた世界を見てきた。しかし、どの世界を見てもコルセイらしき人物を見る事は出来なかった。やがて飛沫が放つ光が少しずつ消えていくと回りから光が消えてゆく。視界からも光が消え、えもいわれぬ不安が心に満ちる。
アヤカの視線の先には胡坐をかく一人の少年がいる。
「あれ? 私立ってるの?」
いつのまにやら底に着いたようだ。回りは闇、闇、闇。一面、闇に支配されている。しかし、少年の回りだけはどういうわけか煌々と光を放っている。アヤカは夜に誘われる羽虫の如く光の元にいる少年に近寄っていく。
「貴方は誰?」




