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第七章 第7話 違和感

 

 荒れはてた街道を巨大スケルトンが走りだす。もちろん街道は整備などはされておらず、サスペンションなどの無い。ただの荷車は大きく揺れ、乗り心地もかなり悪い。しかも、時折オルタナの手綱に反して身動ぐ巨大スケルトンを目の当たりにすると不安も募ってくる。荷車にいる一同の気分は最悪であった。


「乗り心地が悪くて申し訳ないが、セリィの所に着くまでもう少し時間がかかる。さっきの続きの話をしないか? ちなみに俺の感知に引っかかる奴はいないから盗聴はないぜ」


 オルタナのヤギを思わせる瞳が、不規則に揺れながら周囲を探っている。普段、人間が動かす瞳と大きく異なる動きをするので、見慣れていないアヤカとランドルフにとってはかなり不気味である。


 元々オルタナは感知能力に特化した戦士と聞いている。黒外套ことセリィの力を経て、さらに探知能力がアップしたと考えればオルタナの周りに人がいないという発言は信用できるであろう。


「まずはカルディナ様の話をするよ」


 ランドルフが前のめりとなる。普段、冷静に物事を判断するランドルフがこのようになるのは珍しい。やはりランドルフにとってカルディナという存在は特別なのだろう。


「さっきも言ったけどカルディナ隊長は生きてるぜ。【五月闇の地下牢】聞いたことないか? 隊長はそこに囚われているぜ?」


「五月闇の地下牢? 聞いたことないわね。ヒエルナの中にあるのかしら?」


「聞いたことがなくて当たり前だ。一般的には存在しないはずの牢獄、神殿の地下深くに存在する牢獄だ。政治犯や世に出たらまずい犯罪者なんかが囚われているって話で、どうやら隊長はヒエルナの秘密に迫りすぎたようだ」


「ヒエルナの秘密を? 隊長はお父様を探していると聞いているわ。ヒエルナの秘密ってどういうこと?」


 オルタナは手綱を握りながらもう一度目だけで辺りを確認する。自身の能力で安全は確立できているはずにも関わらず辺りを確認してしまうのは、これから話す話が重要であるのを意味する。


「隊長のお父さんに関わることだ。まんざら間違いないでもない。これから話すことを口外すれば間違いなく死刑だ。……聞くなら覚悟して聞いてくれ」


 二人は一瞬の沈黙の後、真顔のまま頷く。オルタナは一度手綱を握りなおすとそのまま前を向きながらゆっくりと話し始めた。


「隊長の情報を手に入れるのにかなり難航した。隊長に仕える諜報員は優秀な人物だが、出てくる情報は国内に隊長が囚われているという情報だけ。そこで俺は別の角度からヒエルナのことを調べてみることにした」


「別の角度?」


「ああ。きっかけはアヤカとコルセイと行ったうつろいの森で滞在した砦だ。あの時に俺が読んでいた本を憶えているか?」


 唐突に出てきた過去の話に驚くアヤカ。顎に指を置き頭を傾げてみるが特に変わったことは思い浮かばない。


「特に変わった本はなかったはずよ。昔のヒエルナの様子を書いた本があった位しか覚えてないわ」


「そう! 数十年前のヒエルナに関する本だ。本を読んでいる最中は違和感を覚える程度だったのだが、日が経つごとにその違和感が俺の中でどんどん強くなっていった」


「違和感? どういうことですか?」


 アヤカが声を強めるとオルタナは口角を上げ少しだけ得意げな表情を浮かべる。


「あの本の中で違和感を覚えたのは亜人の差別についてだ。本が書かれた当時は亜人の差別が特に酷く、金銭的困窮から奴隷落ちが社会問題になっていた」


「そうですね。当時ではそのようなことがあったかもしれません。しかし、今はヒエルナ教の元、一つの思想にまとめ上げられ差別はなくなりました。今のヒエルナは亜人、人族、魔族でさえも平等に暮らしています」


「そこだよ! アヤカよく考えてみてくれ? 宗教一つで戦争が起きる世の中だ。一度でも争いが起きれば数百年に渡る遺恨や禍根を残すことになる。いかに優れている宗教とはいえ、たかだか一宗教が浸透したぐらいで、今のヒエルナ国内のように争いや偏見がなくなるのか? 種族間の偏見や差別、争いがヒエルナ教という一つの宗教であそこまで一つにまとまるのか?」


「それは……」


 アヤカとランドルフが再び考えに耽る。確かに改めて考えればおかしなことであるかもしれない。いや、明らかにおかしい。ヒエルナで十数年過ごしてきたが今初めてヒエルナ教の異常に気付く。なんでこなんな単純な違和感を気付かなかったのであろうか? 


「気付いたようだな。俺もこの異常にはっきりと気付けたのは最近だ。二人もヒエルナから離れしばらく経ってるからこの考えに到達できるのだろうが、短期間ヒエルナを離れたくらいではヒエルナの異常性には気付けない。……俺たちは何らかの手段で国に洗脳され続けてきたんだ」


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