第一章 第27話 取引
梯子の上からアヤカが降りてくる。オルタナは負傷が酷いようで、穴の上で待機している様だ。こちらに声だけが聞こえてくる。
「返事がないから心配したよ」
「あのスケルトンを運ぶのは本当に骨が折れましたよ。コルセイが動かさないとただのデカイがらくたですからね」
「がらくたとか言わないで下さい。スケさんのお陰で俺らは助かったんですから」
「それもそうですね。ありがとうスケさん」
アヤカの声にスケさんが頷く。
「えっ! 嘘? 意識があるんですか?」
得意げな顔を向けるコルセイ。スケさんも当たり前だという表情をしている……様に見える。
「馬鹿だな。コルセイが動かしてるに決まってるだろう」
頭上よりオルタナが顔を覗かせる。アヤカは力いっぱい込めた手でコルセイの額に応急テープを貼り付けた。
「いっ、痛ーーーっ!」
「コルセイ次やったら腕折りますから」
「えーーっ。腕!? 怖っ。冗談だよ冗談。怒らないでくれよ」
アヤカは無言でコルセイから横たわっている黒外套に視線を移す。先程の攻撃により一切動く事はない。身体からはドクドクと黒い液体が流れ続けている。呼吸もしていないように見えるが、そもそも生き物であるかもわからない。念の為、持ってきたロープで足以外の全てを拘束していた。
「で、こいつはどうするの? 私はヒエルナに連れて帰るべきかと思うけど」
「賛成だ。こいつから得られる情報はラマダンの解明につながる可能性が高い。残りはこの先の小部屋に向かうだけだな」
「ん? オルタナあなた馬鹿なんですか? そんな事してる場合じゃないですよ。あなたの出血は一刻も早く手当しなくてはなりません死にますよ。しかも奥に向かうにしてもその先に何があるかわからない。後で瘴気対策をしっかりとして向かえば良いではないですか?」
「いや、あの小部屋自体に奥がある可能性はかなり低い。この黒外套がその部屋の前に張っていたのが証拠だと思わないか?」
アヤカとオルタナの意見が食い違う。二人はコルセイを見て意見を聞きたいと考えているようだ。小部屋の先は見て見てみたい。しかし今ではない。そこはアヤカと同意見だ。早く砦に戻り手当をするか、出来るならば街に戻り然るべき医療行為を受けるべきだろう。コルセイがアヤカの意見に同意しようとすると後ろから声が響く。
「そこの男。無理をするな。その傷では碌に歩くことも出来ないはずだ。そ、それともそれをわかった上での発言か?」
コルセイとアヤカは即座に振り返り身構える。スケさんに意識を繋げるとスケさんはすぐさまアヤカの前に立ちはだかった。
「小僧、いくつか聞きたい事がある。し、質問に答えろ」
相変わらず無機質な声である。男か女か、そもそも生き物であるのかもわからない。しかし、落ち着いた様子で話す姿は高齢の女性の様にも見えなくはない。コルセイはアヤカに目配せをすると構えを解かないまま、黒外套に話しかける。
「さっきまで俺たちを殺そうとしていたお前に、俺たちが話すと思うのか?」
黒外套は静かに短く笑うと少し寂しそうにコルセイに話す。
「事情が変わった。話がしたい。お前たちにとっても悪い話ではないはずだ」
判断材料が少ない。話は聞きたいが時間稼ぎであった場合はこちらが一気に窮地立たされる可能性もある。コルセイが態度を決めかねていると再び黒外套が口を開いた。
「では、まずはこちらから条件をだそう。私はそちらに横たわっている男の命を救うことができる。その男から何と聞いているかは分からぬが一時間と持たずその男は死ぬぞ」
コルセイとアヤカはオルタナを見上げる。オルタナは何も言わず、目線だけをそっと落とす。
「どの時代の男も本当に馬鹿だ。足でまといになった自分を枷とでも思ったのだろう。残されたものの気持ちを考えないのだろうか」
「オルタナ……。わかった質問に答える。その代わり治療が先だ」
「ここで治療はできぬ。先程お前たちが言っていた小部屋に向かう。そこに治療できる機材もある。瘴気は心配するな、あれは私から出ていたものだ。今は出ていない」
「瘴気を出していた? いや、それよりコルセイは本当に言うことを信じるのですか?」
「俺も信用したわけじゃない。だけどこうする他ない。俺はオルタナを見捨てる事は出来ない」
頭上からはオルタナが叫ぶ。
「コルセイ、アヤカ。置いていけ。俺はお前たちの足を引っ張りたくない」
スケさんの腕を梯子の先まで伸ばすとコルセイは有無を言わさずにオルタナを掴みあげる。
「お前の言う通りにする! さあ行こう。話しながら部屋に向かおう」




