第六章 第56話 怒りの赤門と悲しみの青門
「コボルトの武士よ。いいところにいたな。説明している時間はないが、生き残るか為に協力してやる。力を貸せ」
エグスメントの唐突な話しに言葉を失うガイブ。しかし、事情を知らないアヤカはガイブの背後から勢いよく前に出ると、突然現れたエグスメントに食って掛かろうとする。しかし、アヤカがエグスメントに声を上げることはない。アヤカの腕に衰弱したオリビアが渡されたのだ。
「えっ? オリビア!」
「早く手当てをしてやれ」
「なっ! は、はい」
アヤカは全身に力を入れオリビアを両腕に抱えると、ゆっくりとオリビアを降ろす。すぐさま道具袋より出したレリックでオリビアを照らし始める。
「さて、邪魔はいなくなった。時間がないぞ。お前に求める事は一つ、我を支えよ。今から降り注ぐあの馬鹿者の一撃は何とかする。しかし、戦闘で負傷した体を我が支えきれるかは疑問だ。死ぬ気で我を支えよ」
ガイブは何とか言葉を紡ぎだそうとするが、目の前にいるエグスメントの威圧感と魔方陣から放たれる魔法の切迫感から言葉を紡ぐことをやめる。
しかし、この後にどうするにしても一言だけ、親友のことだけはきいておかなくてはならない。
「コルセイは?」
「死んだ」
エグスメントの視線はオリビアに向いている。どういう状況かは分からないがオリビアを守り、コルセイの命は尽きたのだろう。思わず拳に力が入る。割れんばかりに歯を噛み締めると、力が入った首が自然に下を向く。
「そうか」
エグスメントは無言で前を向き、長刀に魔力をかけると詠唱を始める。ガイブは腰を落としエグスメントのすぐ後ろに構え、腰に残された赤い薬剤を首に挿した。
(コルセイ許せ。お前を守れなかった。お前がオリビアを命がけで守ったというなら俺はオリビアの命を自分の命をかけて守る)
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エグスメントによりコルセイが死んだと聞いたアヤカ。しかし、意外なことにアヤカは涙を流さなかった。今のこの状況で悲しんでいる場合ではない、という冷静な面もあったのだろうが、実はアヤカはコルセイが死んだ実感が沸かなかったのだ。根拠はないがまた会える。アヤカの胸の中はそのような想いで溢れていた。
(貴方が死んだなんて嘘よね? まだ、どちらを選ぶか聞いていない。絶対にまた会える!)
上空の魔方陣はどこまでも大きくなると思われたが、つい先ほどからその大きさは留まりつつある。どうやら魔法は次の段階に入っているようで、照準のサンアワードに向けて徐々に魔力が集まっているように見える。先ほどまで奇声を上げていたホワイトドラゴンも今は不気味に沈黙を保っている。
長刀を構え、詠唱を唱えていたエグスメントは最後の詠唱を言い終えると姿勢をそのままにガイブに話しかける。
「間にあったぞ。後は我が勝つか、いかれたドラゴンが勝つか術と術の力比べだ」
――その刹那、上空の魔方陣が稲光のように輝くと不協和音と共に光の洪水が襲い掛かる。その膨大な質量は風を巻き起こし、上空の雲が一瞬で消滅、空が晴れ渡る。光は途切れることなく発せられサンワードに到達するその瞬間まで光の量が衰えることはない。
ガイブはホワイトドラゴンより放たれた魔法に対し、ただただ驚くことしかできなかった。気付いた時には光の洪水は目の前に迫っており、瞬きをすることもなくガイブを始めサンワードが消滅するかと思われた。
しかしガイブが目を開いた時には誰も消滅はしてい無い。膨大な光は魔王エグスメントの両腕に吸い込まれている。否、両腕の触れる先から消滅しているように見える。
ガイブがエグスメントの手元を見てみればその先にはガイブと同等の背をした門が二つ。その背後から門を抑えるような形でエグスメントがそれぞれを抑えているように見える。
門は怒りを表した堀の深い表情をした赤門と悲しみを現したのっぺりとした表情の青門の二つ。扉を全開にして信じられないような膨大な量の光を相殺している。
無機質であるはずの門はそれぞれの感情に合わせ怒りの声と悲しみの声を上げており、心なしかその姿が大きくなっているように見える。怒りと悲しみの声は更に大きくなってゆき、それに反比例して不協和音の音がかき消されている。
「凄い」
ガイブはエグスメントの背後で目の前で起こっている現象をただただ見ている。背を支えろとエグスメントはいったがその必要はない。怒りの門と悲しみの門はホワイトドラゴンの放つ魔法の量を超え分解しているのだ。
門は光を吸収し成長しているようで、気付けばガイブが見上げるほど両門は大きくなっている。このまま押し切れるとガイブが思い始めたところでエグスメントに異変が起こる。
状況は五分五分以上に見えるというのに歯を食いしばっているのだ。
「背後に着け、我を支えよ! ここからが奴の本気だ!」
毎度ありがとうございます。次回は七月十一日再開予定です。また、ご覧になって頂ければ幸いです。




