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第一章 第26話 巨大スケルトンことスケさん


 時を少し巻き戻す


「この止血剤すごいじゃないか!? 痛みどめと合わせたらだいぶ動けるようになった」


「応急処置の域を出ていないので無理はしないようにして下さい」


「そういえばスケさんはどうしたんだ? コルセイの奴ゴブしか連れてなかったみたいだけど」


「この水路には狭すぎて入れなかったんですよ。ゴブリンは箱に入れ持ち歩いてきたので水路に問題なく入れました」


 オルタナが降りてきた床下の扉からは縄梯子。アヤカが先に登り安全を確認すると、続けてオルタナも登る。


「早く登って下さい。これからコルセイの援護をします!」


 先程の朽ちたベッドの周りには、蓋が開けられた液体入りの複数の容器が並ぶ。オルタナが梯子を登り切る次々とアヤカはその容器を蹴り落とす。


「アヤカこれは?」


「刺激臭がしませんか? 多分揮発性の高い魔力燃料です。さっきこちらに向かう際に見つけました。水路はコルセイがいる風下に向かい空気が流れていきますので。これに火をつければ」


「その容器、そんな物騒な物が入っていたのね? ……そういうの早く言ってくれるかな。ランプの火つけそうになったから」


 オルタナが一人で冷や汗をかいているのを横目にアヤカは容器を下へと落とし終える。間をおかずに懐から出した渦状の笛を咥き、一呼吸置くと小さな丸い陶器を投げる。アヤカはオルタナを引っ張りながら扉の陰に急いで隠れる。


 ドシュッッッッ!


 水路から激しい水飛沫が上がると同時に風下に向かい爆風が吹き抜け、数瞬後には建物全体が震える。アヤカとオルタナが梯子がかけられていた小さな穴を確認すると、小さな隠し扉は巨大な空洞となっていた。


 ※※※


 アヤカから貸して貰った特殊な聴取機を耳から外しながらコルセイは水中より顔を上げる。


「この聴取機で笛の音を聞くまでは良かったんだけどこれ防水だよね? なんか変な音が聞こえるんだけど……壊れてないよね」


 視線の先の黒外套は膝をつき仰けに反った姿勢でブスブスと煙を立てている。黒いコールタールの様なものは剥がれ黒い外套全てが焦げ付いているのがわかる。この爆風を浴びて生きていられる人間はいないだろう。


 黒外套を背にコルセイも水路を脱出すべく走り始める。聴取機もだが、簡易ガスマスクも水に潜ったせいか先程から調子がおかしい。アヤカに「弁償して下さい!」と言われたらきっとコルセイの安月給では払いきる事はできないだろう。そんな事を考え、暫く走っていると先程の隠し扉付近に行き着く。


「アヤカ! 梯子を頼む!」


 返事はこない。しばらくの静寂の後、背後に違和感を感じコルセイは振り向く。瞬間、コルセイの目の前に黒い閃撃が迫っていた。反射的に避けようとするものの避ける事が出来ずに顔を腕で覆うだけの形となる。黒い閃撃は衝撃となってコルセイを弾き飛ばし、コルセイはゴロゴロと水路を転がる。


 水から何とか顔を上げたものの、その先には何事もなかったかのように黒外套が佇んでいる。黒い外套には先程にも増して黒いコールタールのようなものが巻き付き、まるで生きているかの様に不規則に蠢いている。


「もう、二度と。繰り返しては、ならない」


 水路の中で額を切り出血が止まらない、先程の不意打ちでショートソードを落とし、ゴブはダメージが大きかったのか使役しようとしても反応がない。


 丸腰の状態で構えるコルセイ。頭上からは未だに梯子がかかる気配はない。


「あの爆発で生きてるって、どういう体してんだよ」


 強がっては見たものの黒外套は特に反応する事もなく刀を構える。丸腰のコルセイにとって次の一撃が致命傷になるのは間違いない。ダメージを食らう前と何ら変わりない足取り。黒外套は半歩足を開くと、こちらに向け踏み込んで来る。


 水飛沫が勢いよく飛び散り、コルセイの間合いに刀が振り下ろされる。瞬間、黒外套は天井より突如現れた豪腕によって叩きつけられる。


「はぁ。はぁ。間に合って良かったよ。スケさん」


 穴から降りてきた巨体は巨大スケルトンことスケさん。スケルトンはそのまま左手で黒外套を握り、そのまま黒外套の頭を下にして叩きつける。


グシャ! グシャ!


 二度、三度と勢いよく左腕で黒外套を水路に叩きつけると、水路側面に向けて黒外套が思いっきり投げつける。再び生き物が潰れる音が鳴り響くと、そのまま黒外套は起き上がる事はなくなった。


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