第六章 第46話 三賢人
エグスメントが空間を固定した足場を使いホーリーゴーレムを翻弄、オルトロスが上下左右よりが襲い、光のヴェールを嚙み千切る。オルトロスの素早い動きに翻弄されていると、どこからか現れたエグスメントがホーリーゴーレムに振り下ろした一撃を与える。
ホーリーゴーレムも光のヴェールにて超回復を図るが、オルトロスとエグスメントの連携のあった攻撃に防戦一方となり、やがてホーリーゴーレムにじょじょにダメージが蓄積していく。
「このままでは勝てない!」
オリビアが光の玉に魔力を込めるとオリビアの周囲には三つの光の渦が現れる。光の渦は掌ほどの大きさがあり、その一つにオリビアが手を突っ込むと渦の中にオリビアの魔力が急速に吸われてゆく。
「分かったよオリビア。でも、早く終わらせて」
辺りにヒエルナの声が響くと同時にホーリーゴーレムの体に変化が現れる。光のヴェールがホーリーゴーレムを覆い始めたのだ。
頭には兜を、胸には胸当て、二本の腕が持つそれぞれの柱は光を纏い巨大なバスターソードとなる。さらには頭頂部の裏面が開口。三つの光球が空へ飛び出すとそれぞれが空を飛びながらホーリーゴーレムとの一定の距離を保ち始めた。
「――光増幅術」「――重力制御」「――再構築術式」
それぞれの光球から無機質な声が響き渡ると同時に、エグスメントとオルトロスによって破壊されたホーリーゴーレムの欠片が時を巻き戻したかのように修復を始める。さらには光のヴェールで構築された各種防具に幾何学的な文様が刻まれ光の出力が増幅される。
エグスメントが初めて不快な表情を浮かべる。眉間に皺を寄せ、歯を嚙み締めたのが分かる。
「禁術で蘇った我と同じか」
ホーリーゴーレムの後方の光が安定し、声の主の正体が姿を現す。それぞれの光球の中にいたのは三人の術師。身に包んだローブは華美な装飾が施され、杖には誰が見てもわかるほどの膨大な魔力がほとばしっている。しかし、三人の首から上の表情を見る事はできない。表情が分かる存在がきれいさっぱりと失われているのだ。
「勇者を支えた三賢人か。ホーリーゴーレムといい、三賢人といい、趣味が良いとはとても言えないな」
ホーリーゴーレムが右手のバスターソードを振り下ろす。先ほどまでの、のっそりとした動きと比べものにならない速度で振り下ろされるバスターソード。素早いステップを駆使し、間一髪でバスターソードをオルトロスが躱す。オルトロスは躱しざまに尾の先から鋭い閃光を放つがホーリーゴーレムの本体に閃光が届く前に三賢人によりかき消される。
(三賢人をどうにかしなくてはじり貧だな)
オルトロスが距離を取り、尾に魔力を集中させる。膨大な魔力は蕾のように尾を膨張させるとその蕾が一斉に爆ぜる。尾の先からは放射状に連続して閃光が放たれ、その凄まじい質量は瞬く間にホーリーゴーレムの姿をかき消す。
「無に還るが良い!」
閃光を目くらましにしたエグスメントが三賢人の一人に肉薄する。長刀が振り上げられ、一瞬の内に長刀が振り下ろされる。
「なっ!」
エグスメントの長刀が三賢人を捉えることはない。長刀の先にはこぶし大の歪み。部分的に次元が歪められ長刀がその中にすっぽりと消え去っている。
――刹那。ホーリーゴーレムの頭頂部から光線が放たれる。光線はレイピアの刀身の如く、口径の小さい光線であったが、その圧縮された光の量は膨大であり、エグスメントの胸を貫き、勢いよくエグスメントを地面へと吹き飛ばす。
エグスメントを吹き飛ばした衝撃は凄まじく、地面にクレーターを作り、盛大な土ぼこりを上げるとエグスメントの姿がかき消される。
続けざまにホーリーゴーレムの両腕からバスターソードが振り下ろされ、閃光を放ち続けるオルトロスを閃光ごと一刀両断する。オルトロスは小さく唸り声をあげると、漆黒の霞となり霧散する。
――土ぼこりが晴れ、傷ついた胸を回復し終えたエグスメントが立ち上がる。
「巨人の王よ。約束を違えるかもしれぬ」
※※※
「ハァハァハァ」
オリビアの粗い息づかいが白く染め上がれた空間に響く。顔じゅうから大粒の汗を滴らせ、腕は僅かに痙攣している。オリビアが出現させた次元の歪みは相変わらず存在しており、手を入れた歪みに関しては赤く変色し、不気味な雰囲気を醸し出している。
「まだ立つか。しかし戦況はこちらが圧倒的に有利。このまま押し切る」
オリビアは自分を鼓舞するかのように独り言を放つと、歯を食いしばりガラス越しのエグスメントを睨みつけた。




